うみべのごはん

やさしさに包まれる彼女のカフェ(前編)

小柄で可愛らしい見た目。
いつも優しい笑顔と控えめな振る舞い。
でも、実はパワフル。

「寝なくていいなら
もうずっと作っていたい
みたいな。
おかしなことになってますね」

今年7月末にオープンしたばかり。

古民家をおしゃれに改装して
自分がやりたかったカフェ「とりうみ商店」を
生まれ育ったこのまちで開業したのは
鳥海奈美さん(42)。

忙しい中、優しい笑顔で
お話を聞かせてくれた鳥海さん。

開業から2カ月。
まだまだ慌ただしい日々が続いているなかで
お話を聞かせてもらう。

「営業時間以外はほとんどずっと
仕込みで厨房にいますね。
寝なくていいならもうずっと作ってたい。
ははっははっ」

「仕込みハイ」のような状態に
本人も笑ってしまう。

今年7月末。
鳥海さんが開業した古民家カフェ「とりうみ商店」。
店内は時間によって光の差し込み方が変わり
インテリアの影も美しい。

黒潮町上川口地区の出身で
高校を卒業してからは
高知市、沖縄、東京と、
各地を転々としながら過ごした鳥海さん。

「沖縄は波照間と石垣に。
沖縄でどこの島に行こうか考えた時に
島が多くて決められなくって。

波照間って、「波」っていう字が
入っているんですよね。
で、自分の名前も「なみ」で。
漢字は違うけど、
同じ文字が入っているし行こうかなって」

22~23歳の頃、
自分の住処を決めた理由。
若くって、愛らしい。

波照間島では民宿のヘルパーを、
その後石垣島では焼き菓子屋に勤め、
東京に移り住んでからは
カフェやイタリアン、ビストロなど
さまざまな飲食店での経験を積んだ。

「お菓子作りは小さい頃から。
作るのが好きだったんですよね」

小学生の時に父親を亡くし
母親1人での子育てとなったため、
食事を自分たちで作ることがよくあったそう。

その流れでお菓子も作る。

「自分の食べるものは自分で作る、みたいな。
クッキーって言いながら作ったら
全然甘くもないパンみたいなのができて。
それをひたすら作って友だちに配ったり。
迷惑ですよね」

小学生の頃から
「作る」ことが好きだった鳥海さんが
”もう少し本格的なお菓子”
を作るようになったのは高校生の時。

「私の義理のお姉さん、
兄とは高校時代から付き合っていたんですけど、
高校生の頃に
兄にケーキを作ってくれたりしていて。
それを兄が家に持って帰ってきて
一緒に食べさせてもらうことがあって。
そこからかな。
それまでは
わけのわからないものを作ってたけど、
ちゃんとしたものを作るようになったのは」

”さらに本格的”になったのは
東京のカフェで働いていた頃。

ほとんど独学だったけど、
カフェでケーキを任せてもらうようになり
チーズケーキやガトーショコラなど、
たくさん作りながら勉強した。

とりうみ商店では数種類のケーキが楽しめる。
この日は「アールグレイとりんごのベイクドチーズケーキ」。

それから
東京で出会った今の旦那さんと結婚をし、
子どもを授かり、2人目を妊娠中。

「やっぱりこっちに帰ってこようって
決めました。
東京では子育ては無理だなと思って。
こっちだと、
「この地域に住んでいる子はこの保育園」
って決まってるけど、
東京はそうではないから
探し方もわからないし大変だし。
それに、自分の母親が近くにいるっていうのは
強いですよね。
何かあった時に頼れる人がいるっていうのは
全然違う」

そう考えて、鳥海さんは2019年3月、
家族とともにこのまちへ帰ってくる。

そして実は、
カフェをオープンするまでの3年間、
地域おこし協力隊としてふるさと納税の仕事を。

地域おこし協力隊として働いていた頃の鳥海さん。
今とは違いデスクワークの日々。

「協力隊の試験を受ける時にも
広報紙のインタビューとかでも
「卒業後はいつか小さいお店を持ちたいです」
って、言うじゃないですか。
そこまですごくはっきりとした目標ではなくて
「できれば」みたいな感じで
言ってたんですけど」

それでも、
その言葉を
ぼんやりとした夢を
形にする。

その力がすごい。

-後編に続く-

とりうみ商店」(黒潮町上川口795)
今年7月にオープンした古民家カフェ。手作りにこだわったプレートランチやグリーンカレー、お子さまランチなどの食事メニューやケーキ、ドリンクを楽しめる。また、木・金はうどんメニューの提供となり、手打ち麺や天ぷらなどがいただける。
営業は、火水土がランチ・カフェの提供で11時から17時頃、木金がうどんの提供で10時から14時頃まで(麺が終わり次第営業終了)。日・月定休。

text Lisa Okamoto

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