うみべのごはん

やさしさに包まれる彼女のカフェ(後編)

-前編はこちらから-

「そこまですごいはっきりではなくて
「できれば」みたいな。
まだ子どもも小さいし難しいだろうな、
それこそ物件もないしなとか」

協力隊として3年間の任期を終えたら
いつか自分の小さなお店を持ちたいな
なんて思いながらも、
はっきりとはしていなかった夢。

それでも、人に話していたぼんやりとした夢を
この夏、実現させた鳥海さん。

「協力隊を卒業して
また違う仕事を探すっていうのも
簡単じゃないし、
じゃあやっぱり自分でやろうってなったんです」

でも、物件探しが大変。

インターネットなどで
空き家を探して見学したり、
周囲に情報をもらったり、
町をまわりながら良さそうなところを探して
家の持ち主を探したり。

なかなか見つからなかった物件。

でも、協力隊卒業の半年ほど前。
「この物件に住んでいた人が
高台に家を建てたから
引っ越すらしいって聞いて。
「え!」ってなって。
その頃他の物件も見てたんですけど、
ここの物件を見た時に
「いやもうここでしょ」って決めました」

店内に入れば高い天井に
梁を活かしたデザインが
開放的な気分にさせてくれる。

「壁を取って、天井を取って。
床も張り替えてます。
設計士さんに
「昔の小学校の床みたいにしたい」って言ったら
大工さんたちが足場板を集めてくれて。
ペンキとかで汚れている感じで
大工さんには「これがえいがか?」
なんて言われたりしながら。
でも、完成したらみんな
「めっちゃええ」「最高」って」

元々あった天井を取ってスペースを広く開放的にした店内
ふすまの配置を変えたりしながら作った和室。
子連れでもゆったりと過ごせそう。

改装のアイデアは
旦那さんやお兄さんと一緒に
ああしたらいい、こうしたらいいなど話しながら
「あ、それめっちゃええやん」
なんて褒め合いながら
次の日には設計士に伝え進めていったそう。

それに、テーブルや椅子、ライトなど
インテリアもどこかレトロな雰囲気を感じる
素敵なものばかり。

「東京で働いていたカフェが
アンティークに和も混ざったようなところで
その雰囲気がすごく好きだったんです。
自分が「こういうのが好き」っていうのは
はっきりしてるから、
ひとつひとつ全部ネットで検索して揃えました。
イスひとつにしても
「もうちょっと安くなりませんか」
なんてネットで交渉しながら」

「大きな照明を一つ取り付けたかった」と話す
印象的なライト
小さめのテーブルにはレトロな照明が可愛らしい

「本当に楽しかった」と
鳥海さんは振り返る。

メニューはすべて手作り。

プレートランチには、
ライ麦パン、キッシュ、鶏ハム、
グリーンサラダ、ポテトサラダ、
キャロットラぺ、スープなどが盛り付けられ
キッシュは生地から手作りしているそう。

見ても食べても身体が喜ぶのがわかる。

プレートランチは手作りにこだわり、栄養も満点。
サラダのドレッシングはお兄さんの手作りで購入も可。
数種類のケーキももちろん手作りで美味しい。
レトロな雰囲気でクリームソーダが飲みたくなる。

木曜日と金曜日には、
鳥海さんの兄・山﨑祐樹さんが
「うどん担当」として
カフェからうどん屋に変わる。

しょうゆうどんと天ぷら盛り合わせ。
手打ちの麺がつるっと喉を通って行く。
きつねうどんにはお揚げが2枚も。
出汁もよく染みて美味しい。

「兄はずっと板前さんをしていて、
料理に携わっていたんですけど。
私がまだ東京にいたときかな、
「うどん修行に行く」って言って。
で、私がいつかカフェをやりたかったから
ノリで「うどんカフェやろう」とかって
言ってたんですよ」

「いつか小さなお店を」という夢に加えて
ノリで話していた兄妹のお店に
仕上げてしまうからすごい。

そのおかげで、
カフェだと一人では入りにくい男性のお客さんも
うどんの日に来店したことをきっかけに
「次はカフェにも来てみます」
「今度は友だちを連れて」といって
帰って行くこともあるそう。

閉店後、お酒を飲みながら談笑する
鳥海さん(右)とうどん担当の兄・山﨑さん(左)。

「私が中学生の頃は
この通りにもお店がいっぱいあったんです。
スーパーのようなお店も、魚屋さんも、色々。
にぎやかだったんですよねえ。
今は静かになってしまったけど、
少しでもまたあの頃みたいに
にぎやかになればいいなって。
だからやっぱり
上川口でやりたいなって思ったんです」

生まれ育ったうみべの町への思い、
育ててくれ、支えてくれた
地域の人たちへの思い、
きっとそんなことが
この場所での開業につながっている。

「ねぇおかあさーん、
このコーヒーゼリー食べたあい」
学校から帰って来た
ランドセル姿の長女をお店で迎え、
「うーん、宿題やってからにしたらあ?」
そんな会話をする閉店後の時間。

先生からもらったというりんごを片手に帰宅する娘さん。
「丸かじりしたい」と言って、がぶり。

誰にでも愛される
パワフルでやさしい彼女の周りには
あたたかな家族と、あたたかな地域が
自然とついてくる。

とりうみ商店」(黒潮町上川口795)
今年7月にオープンした古民家カフェ。手作りにこだわったプレートランチやグリーンカレー、お子さまランチなどの食事メニューやケーキ、ドリンクを楽しめる。また、木・金はうどんメニューの提供となり、手打ち麺や天ぷらなどがいただける。
営業は、火水土がランチ・カフェの提供で11時から17時頃、木金がうどんの提供で10時から14時頃まで(麺が終わり次第営業終了)。日・月定休。

text Lisa Okamoto

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