うみべのいやし

野鳥の世界へ(後編)

前編はこちらから

【今日はええ天気ですねえ】

「鳥を見ていたらストレスがない」
そう話しながら、
森さんは数々の野鳥の写真を見せてくれる。

「野鳥初心者」にとっては
名前や違いがわからず、
一見難しいようにも思うけれど、
楽しそうな森さんの説明が一緒だと
なんだかぐっと興味がわいてきて
鳥の世界に少しだけ入った気になれる。

「カワセミはね、
春になるとオスが魚をとって
メスに口で渡して食べさせるわけ。
求愛給仕いうてね。プロポーズするわけよ。
魚の頭側をメスの口にうつすわけ。
しっぽから渡したら鱗が当たって痛いろう。
これで食べてくれたらOKということ」

さらに愛しくなるのは、
川から魚をとって木の枝にとまると
獲ってきた魚を枝にたたきつけ、
骨や鱗を柔らかくしてから渡すということ。

思いやりは人間だけじゃなく、
鳥の世界にだって存在するんだ。

カワセミ2羽がどこかを向いている写真。
「今日はええ天気ですねぇって話しようぞ」

森さんが笑いながら言うと、
なんだか本当にそんな風に見えてくる。

人間の世界を尻目に、
カワセミが優しく語り合っている。

「今日はええ天気ですねぇ」「そうですねぇ」
そんな風に話しているのかな?
カワセミは色合いが美しく、
綺麗なブルーの羽が目を引く。
2羽のカワセミがじゃれあっている様子。
3枚とも入野で撮影された写真。

森さんがストレスを感じない瞬間、
実はもうひとつある。

ジャズ。

森さんが住むログハウスには、
大きくて立派なスピーカーがあり、
ここでジャズを楽しむという。

「最初はねぇ、やかましい思うたがよ。
25年前くらいかねぇ。
それ以前はクラシックとか、
さだまさしとか聞きよったがやけど。
「枯葉」。
あれを聞いたらね、「これはえい」思うてよ」

「枯葉」は、元々はフランス映画の挿入歌で
今では数々のジャズ演奏家により演奏をされ
ジャズを知らない人でも
一度は聞いたことがあるような
とても有名な曲。

「枯葉」からジャズにはまり、
レコードやCDなどで数々の演奏を聞いたり、
東京・新宿にある
ジャズライブハウス「Pit Inn」や
岩手・一関のジャズ喫茶「ベイシー」など
わざわざ遠方へ実演を聞きに行くほど
森さんはジャズに熱中した。

「おすすめは?」と聞くと教えてくれたのは
Eddie Higgins(エディヒギンズ)
というジャズピアニスト。

日本が好きなピアニストだから
「祇園小唄」など
日本人が好きな曲も多く弾くそう。

ログハウスの階段にある棚にはたくさんのジャズのCD
たくさんあるCDの中から
Eddie Higginsや山本剛をおすすめしてくれた。

「鳥を見ている時はストレスがない」
そう話していた森さん。

「あ、ジャズもやね。うん。
ジャズを聴いている時も
何も考えずにおれる。この2つやね」

野鳥の世界に入ったり、
雨が降る日にはジャズの世界に入ったり、
いつもと違う世界に入る時間が
人生をもっと豊かにする。

森さんの屈託のない笑顔を見ていると
そう感じる。

さあ、私はどんな世界にいってみよう。

*「野鳥初心者」でもカワセミを見つけられるかも…
「カワセミは簡単に見つけられる」と話す森さん。
カワセミを探す時は、最初にフンを探すそう。止まり木の下に白いフンが落ちているそうで、ちょうど10月頃から観察できるのではとのこと。くちばしの下側がピンク色になっているのがメス。鳴き声は「ツィー、ツィー」といった感じ。留鳥であるため、一年を通じて黒潮町でも見えるそうです。涼しくなってきた秋の季節。散歩のついでに野鳥を探してみませんか?

*掲載している野鳥の写真はすべて森さんが黒潮町や幡多地域で撮影されたものです。

*うみべのくらしインスタグラムでは、森さんが撮影した動画も掲載しています。
 こちらもあわせてお楽しみください。 @umibe_no_kurashi

森富美男さん(72)
黒潮町出身・在住。高知野鳥の会所属。野鳥を追いかけて町内や近隣地域、コロナ禍以前は県外にも頻繁に通う。小さな頃から写真好きだったことから、野鳥の写真も数多く記録しており、町内などで写真展を行うことも。NPO砂浜美術館主催の「野鳥観察会(毎年冬期開催)」の案内人も務める。

text Lisa Okamoto

-うみべのいやし