熊野浦。
佐賀の街中から海辺のルートを通り
どんどん、どんどん、
くねくね道を上って行く。
上り切ると、今度は下っていく。
下り坂が始まれば、
両脇に広がるのは、みかん畑。
ここで「森本みかん園」を営むのは
森本一洋さん(58)・節子さん(48)夫妻。
一洋さんの祖父の時代から続くみかん畑を
父から引き継ぎ、
今、夫婦で「潮風みかん」を栽培している。
道の駅で見つけたこのみかんを買い、食べた時、
夜のテーブルで
家族と一緒に食べたみかんを思い出した―。
「ここまで来てもろうたがやけど、
もう作業終わったき、上の畑に行こうか」
到着した朝8時には
すでにひとつの畑での作業を終え、
朗らかな笑顔で迎えてくれた一洋さん。
「どこの子~?」「何の取材?」
「10年後は何してたいの?」
質問攻めにする節子さん。
初対面なのに、
とてもフレンドリーで元気な2人。
一洋さんは地元出身、
節子さんは高知の東・室戸市の出身。
2人はみかん農家になる前、
建設畑で仕事をしていたそうで
働いていた会社は違ったものの、
現場で一緒になることがあり、出会ったそう。
それから2人は結婚し
みかん農家になって現在15年ほどが経つ。
2人のみかん園では、
春に肥料を撒き、耕して、畝を作る。
4月下旬にはみかんの花が咲き、
10月頃まで畑の雑草を一掃しながら
収穫に備える。
取材に伺った10月中旬、
収穫していたのは極早生の品種。
今年は9月25日から収穫が始まり、
11月中旬になると今度は早生、
12月10日頃からは普通の品種の収穫が始まる。
みかんと言えば
「こたつで」というように
冬のイメージが強いけど、
まだまだ暑い9月のうみべの町で
みかんの収穫が始まっていたということを
初めて知る。
「潮風みかん」は名前のとおり、
海辺の小さな集落で栽培されていて
潮風の影響を受けて育つ。
「潮風にあたって、木がプレッシャーを感じたら
実が美味しゅうなる。
台風とかでも、木が枯れん程度に弱ってくれたら
実が美味しゅうなるがよね」
なんでだろう。
そんな疑問に
「子育てを一生懸命せないかんと思うきやない?
俺、みかんの木やないき、わからんけど」。
冗談を言いながら答える一洋さん。
「おいしいみかんの見分け方は?」
という問いに
「秘密~。
食べて、「あ、これおいしい」いうてね」
とふざけて答える節子さん。
思っていた通りには取材が進まず、
みかんのことをうまく聞き出せなくて
焦りながら、
でも、あたたかい2人の人柄が
とっても伝わってくる。
「昔はこの地区みんなで
「熊野浦みかん」というみかんで、
共同選果場を作って共同出荷しよったがよ。
でもまあ、衰退してきたんよ、高齢化で。
この近辺みんな、みかん畑やった」
昔は15~16軒あったみかん農家も
今では5軒ほど。
「もう2~3年で2~3軒減るがやない」
と一洋さんは話す。
高齢化で段々とみかん農家が減って来た時に、
「じゃあこの機会に
自分たちで名前を変えようか」
と、できたのが2人の「潮風みかん」。
道の駅などで見かける
可愛らしいデザインの袋や箱に入ったみかん。
クジラが潮を吹いているその上には
みかんが乗っている。
名前だって爽やかで、かつ愛らしい。
ずっと前から気になっていたあのみかん。
「ロゴは僕。クジラのデザインは節子。
アイデアも絵も自分たちで。
ええろう?潮風みかん」。
うん。とってもええ。
まさか農家さん自身が
デザインまでしていたとは思わなかった。
「潮風みかんで商標登録をとってね。
ネットでほら、
「みかん」で検索したって出てこんやん。
小さい農家のは。
でも、「潮風みかん」で検索してもらったら
絶対トップにおるわけよ」
「潮風みかんで検索してください」
とお客さんにひとりずつ教えることで
その人がまた違う人に教えて。
口コミにホームページの力が加わって
広がっていく。
でも、その道のりは簡単なものではない。
「ようやく」といった感じに
2人のみかん園が軌道に乗り始めたのは
ここ3年ほどの話だそうで。
「森本みかん園」(黒潮町熊野浦93-2)
黒潮町熊野浦地区で「潮風みかん」を栽培するみかん園。昭和30年頃、祖父の代から続くみかん園で、森本夫妻が経営を始めてからは「潮風みかん」として販売を開始。道の駅やまごころ市(黒潮町佐賀)で購入ができるほか、メール、FAX、電話でも注文が可能。
Text Lisa Okamoto