うみべのごはん

あたたかさ、ぎゅっと(後編)

―前編はこちらから―

「糖度やないで、人脈やで」

スーパーやメディアでも
「糖度〇〇の〇〇」なんて
糖度の高さを売りにする果物をよく見かける。

それも、ひとつだと思うけど、
みかんは単純に
糖度が高ければいいものではない。

「まあ、酸味と糖度のバランスがようないと。
糖度が高いみかんって、
酸味も強いき食べにくい。
そのバランスがよくないとね」

もちろん、個人によって味の好みは違って、
甘いみかんだって美味しい。

でも、あの時、
道の駅で買った「潮風みかん」を食べて
昔家族と食べたみかんを思い出したのは、
そういうことなのかな。

あま~いだけではなくって、
酸味がちゃんと感じられる。
昔からある、美味しいみかん。

そこに、「人脈」も大切にしながら作っている
そんなあたたかさの甘味が
加わっているような…。

朝8時。トラックの荷台には収穫されたみかんがどっしり。

潮風みかんは市場には出荷していないため、
ほとんどが個人のお客さん。

お客さんからお客さんへとつながっていく。

「新鮮だとはよう言われるね。
ここのみかんは、
採って3日後にはお客さんの口に入る。
市場に行って、卸が買って、
スーパーでお客さんが買って
っていうたらもうすでに1週間。
古いみかんはやっぱり
酸味がなくなってくるから、
うちのは酸味が残ってるし喜ばれるかな」

「潮風みかん」のロゴとイラスト、
連絡先が書いたみかんの袋を
「大事にとってるんですよ」
なんていうお客さんもいて
そこから注文にもつながっていくという。

道の駅ビオスおおがたで販売される潮風みかん

でも、最初からお客さんがついてくれて、
注文をしてくれて…
というわけではない。

「会社辞めてよ、
それまでは普通に給料もらいよった人がよ、
年収17万。
「どうやって暮らしたらえいが?みかんって」
って」

「苦労話しようか?」
「語りだしたら多分3日くらい泊まりに来んと
語りきれんきね。
「もう、もういいです」って帰ると思うで」

笑いながら話す2人。

「最初の年なんて、
Mさんという人が
大量に買ってくれたがやけんど。
その人の注文がなかったら、もうないがちや。
暇で暇で、
「もうMさんから電話ないかなあ」とかいって」

「一袋300円のみかんを
配達しよったきね。
電話鳴って、おばあちゃんから。
電話ってお金かかるやんか。
「ワンコールで切ってかまん?」
って聞いたりして」

最初はそうやって、
1人、また1人とお客さんを増やしていった。

2人が大切にしているのは
商品を買ってくれるお客さんだけではない。

「去年、道の駅でお客さんに
「このみかんは甘いですか?」
って聞かれたがって。
「いや、まだそんなにですね」って答えたが。

そしたら道の駅の店員さんが後ろから
「森本さんちのみかんは甘いですよ。
後悔しません」って。
嬉しいやんか。さらっと言ってくれるがって。
私その店員さんのファンやもん」

道の駅や産直市など、
「潮風みかん」を扱ってくれている場所、
人とのつながりも
2人のみかん園に欠かせないもの。

「3年ばあ前からやろうか。
肥料のやり方とか、配合とか、
16~17年やってやっと「これやね」っていうがが
見つかってきた。
まだ変えるかもわからんけど」

泊まり込みで苦労話を聞くことはなかったけど、
勝手な想像も失礼だけど、
きっと、とても苦労したんだと思う。

でも、それを明るく、
初対面の私に話してくれる森本夫婦。

取材中、終始漫才のように楽しませてくれた森本夫妻

楽しい2人だなあと、真面目に話を聞いていると
「けんど、私らの話、半分嘘ばっかで?」
なんて調子で、冗談ばかり言う節子さん。

でも、それが2人なりの「もてなし」で、
愛があって。

みかんに対しても、お客さんに対しても
気持ちがぎゅっと詰まっている。

遠く離れた実家に、みかんを送ろう。
年末にまた、家族一緒に食べられたらいいな。

そんな風に思わせてくれる、
あたたかくてやさしいみかん。

うみべの太陽と潮風、そして2人のあたたかさが
ぎゅっと詰まったみかん

森本みかん園」(黒潮町熊野浦93-2)
黒潮町熊野浦地区で「潮風みかん」を栽培するみかん園。昭和30年頃、祖父の代から続くみかん園で、森本夫妻が経営を始めてからは「潮風みかん」として販売を開始。道の駅やまごころ市で購入ができるほか、メール、FAX、電話でも注文が可能。

text Lisa Okamoto

-うみべのごはん