日々、時々に変わっていく波の音。
町の季節の移ろいを感じられる場所に
たたずむ一軒のホテル。
「ホテルの前に広がる海が
黒潮町の一番の魅力かなと思うんです。
この自然と関わりながら過ごせるのが
ネストの魅力ですかね」
ネスト・ウエストガーデン土佐の
山本祥平さんは、
黒潮町出身の37歳。
すでにコロナ禍となっていた2020年に
代表取締役に就任し、
うみべのホテルに
新しくて柔らかな雰囲気を生み出している。
大学時代からデザインに興味を持った山本さん。
大学卒業後、帰郷し地元企業で働くも
「やっぱりデザインがやりたい」
その思いから
東京でグラフィックデザインの分野に
踏み出した。
「でも、誰に向けてやっているんだろうって。
顔も見えない、誰のために、何のために
デザインの仕事をしているのかな
って思いだして」
都会で働きながら抱いていた思い。
地元に帰ろうかな。
でも、デザインをやるって言って出ていったのに
たった3年で帰るって…。
納得できる理由が欲しかった。
そんな時、
「砂浜美術館」のコンセプトも手掛けている
高知県在住のデザイナー
梅原真さんの本に出会う。
「地域をデザインしているっていうのを読んで。
人が地域を好きになっていくきっかけに
デザインがあるんだなと思えたんですよね」
納得のいくきっかけができ、
ここに帰ってきて、
山本さんはさらに黒潮町を好きになる。
「納得感」を与えてくれた梅原さんと
NPO砂浜美術館の村上健太郎さんの対談。
「帰ってきた頃に2人の話を聞く機会があって。
健太郎さんの話に心を動かされたんです。
県外から黒潮町に来ているのに、
黒潮町の魅力を掘り下げて考えていて。
それはただ外から見た黒潮町の良さ
だけじゃなくて。
黒潮町の人たちが
ちゃんと暮らしていけるようにするには
外からの視点で見た魅力だけじゃ
やっていけない。
豊かさは地元の人と移住者とは違う場合もある。
でも、そんな両面を健太郎さんは考えていて。
黒潮町がさらに好きになったきっかけですね」
その後、
ホテルの代表に2年前、
35歳の時に就任。
知識や経験もなく、
不安になりそうな状況でも大丈夫だったのは
山本さんが中学校へ入学する頃に
父がホテルの代表となり、
ホテルも、そこで働く人たちも
小さな頃から「身近」だったから。
「知識や経験がない中でやってこられたのは、
まず、常務がいたからですね。
「ひとり」と思って社長になるのは
なかなか不安がありますけど。
常務やスタッフがいたから」
ネストの常務を務める森田さんには
子どもの頃、サッカーを教わっていたとか。
「それに、父にも感謝しています。
小さな頃から父の働き方や考え方を見ていて、
自分とは全くタイプが違うんですけど。
でも、だからこそ、今自分が代表となって、
自分の考えだけではだめなんだな
っていうのがわかるんです」
父親の仕事場は
子どもの頃の山本さんにとって
”兄”や”姉”のような存在だった。
だからこそ、
感謝しているからこそ、
今度はみんなに還元していきたい。
山本さんはそう話す。
「常務がずっと言っているのは、
“従業員が満足していないと
お客さんも満足してくれない”
ということ。
給料とか働き方とか、時代も変わっているし、
今までの環境よりも
良い方向に変えていきたいですね」
大切にしていきたいものがある。
今、地方でもホテルやグランピングなど、
綺麗で洗練された宿泊施設が誕生している。
でも、「ネストがここにある意味」というのは
それとはちょっと違うのかもしれない。
「ネスト・ウエストガーデン土佐」(黒潮町入野184)
1997年開業。入野海岸や入野松原を望む場所で宿泊・レストラン・ウェディング事業等を行う海辺のホテル。お菓子屋さん「tutu」を併設。昨年夏には敷地内にグランピング施設「nokka(ノッカ)」もオープン。トレーラーハウス型の施設で自然を楽しみながらの宿泊も可能。
text Lisa Okamoto
*うみべのくらしで「NPO砂浜美術館」も過去に取材しています。
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