黒潮の家で味わう「何もしないぜいたく」に
もうひとつ魅力を加えるのは、
女将・上原麗さんの土鍋ご飯。
その名も「おたふく」。
宿泊客などの予約に合わせて
数種類の土鍋を使い分けながら
季節にあわせた料理を提供してくれる。
湯気が出てきて、火を止めて。
蓋を開けるまでのわくわく。
開けた瞬間のときめき。
両親が共働きだった上原さんは
小さな頃から料理や手伝いをしていて、
「お手伝いしたら褒められるやん。
そしたらまたやるやん」
と、褒められたらさらにやってしまうという
彼女らしいエピソードを追加してくれる。
そんな経験から
料理も好きだったという上原さんが
「土鍋」に出会うのは、
東京で働いていた頃の話。
東京にある高知県のアンテナショップで
働いていた頃、
「丸の内朝大学」という
社会人を対象にした講義に参加することになる。
出勤ラッシュの時間帯をずらすために
朝1時間早く集まって
みんなで勉強をしようというもの。
新聞を読むクラス、ヨガをするクラス、
いろんなクラスがある中で
上原さんが選んだのは
「地域プロデューサークラス」。
よそ者の視点でその土地の魅力を発見して
地域を盛り上げようというもので、
その年は三重県が題材だった。
「三重県なんて行ったこともなかったし、
正直、他の人と知り合うことが面白そう
と思って参加してたから
題材はどこだって良くて」
でも、どこでも良かったはずが
上原さんを魅了する「土鍋」と
ここで出会うことになった。
三重県の「伊賀焼」。
50人いた参加者を4グループほどにわけ、
たまたま上原さんが入ったグループが
「伊賀焼」をテーマに扱うことになっていて、
土鍋を作っている窯元の方の
ものづくりに対する
愛のあふれる話を聞いたことで
上原さんの興味が生まれることに。
それから、
伊賀焼をどうやったら
多くの人に知ってもらえるのか?
一家に一台土鍋を普及させるためには?
「おいしい」ってそもそも何だろう?
伊賀焼について3カ月間考え尽くし、
プレゼンを終えた後。
上原さんは、土鍋にすっかりはまっていた。
「プレゼンが終わったから終わりっていう風には
全然なんなくて。
その時には
3カ月の間に土鍋を2~3個買ってたし、
自分がどっぷり土鍋の魅力にはまってるから、
いろんな人に土鍋料理を作っては振る舞い
を繰り返して」
作ればみんながほめてくれるから、
またすぐ嬉しくなって作り続ける。
「好き」が今につながっている。
「料理してるって感じじゃないかも。
調理って感じ。
食材を整えてるというか、形を変えてるだけ。
すごいりぐった(※)料理とかじゃなくても、
蒸して、美味しいポン酢でもあったら
それだけで最高やから」
「食材の宝庫」と上原さんが言う
この町の季節の野菜やいただきものなど、
ただただ土鍋で素材を活かしている。
そんな感じなのかな。
宿だけじゃなくて、
彼女の料理も
肩肘張らず、ありのまま。
なあんもせんでええし、
匂いや見た目で
「しあわせ」と思わせてくれる
とっておきのアイテムだってある。
今度の休みは
おもいっきり、easy goingな旅をしてみよう。
いいよね。
※りぐる…高知県の方言「土佐弁」の言葉。念を入れる、凝る、吟味するなどの意。
「黒潮の家」(黒潮町入野1966)
一棟貸しのゲストハウス。一日一組限定、一名から利用可能。入野海岸や入野松原、加茂神社などが近く、海のレジャーや周辺の散歩を楽しむこともできる。また、リクエストに応じて、女将による土鍋料理「土鍋ゴハン おたふく」を提供。数種類の土鍋を使いわけながらさまざまな料理を楽しむことができる。宿泊予約はWeb等から。
text Lisa Okamoto