うみべのいやし

"Easy Going"を楽しむ宿(前編)

「ここにいたら”人生がしよい”。
リフレッシュするツールがすぐそこにあるから。
なんちゃあせん休日って
ほんとぜいたくやなって
みんなが気づいたら
もっと楽になると思うんよね」

「しよい」。
土佐弁で「簡単」という意味。

人生、簡単。

「人生、簡単」って、なんだか不安。
簡単な人生を送っていることに
安心ができなくて、
なぜか自ら難しくしようとする。

それがいいとも思ってる。

でも、窮屈だったり
しんどかったりする時だってある。

入野松原沿いの民家で
ゲストハウス「黒潮の家」を営む
上原麗さん(37)。

よく喋り、よく笑う、
とってもエネルギーのある女将。

土鍋ご飯を準備してくれている
「黒潮の家」女将・上原麗さん

上原さんがこの宿に行きつく理由は、
「衣食住」が好きで
これを仕事にしたいと思っていたことに始まる。

黒潮の家の玄関口

中学生の頃、
家庭科の先生が大好きだったことから
高校卒業後は
家政学が学べる地元の大学へ進学。

最初は洋服を作ることがとても好きだったけど、
建物や住居のことについても学び、
食べることも好きだったことから
「衣食住全部をやりたい」
そんな気持ちになっていった。

そうなると、
うーん、レストランでもない。
アパレルでもない…。
「あ、ホテル、というか宿やん」となったそう。

大学卒業後には伊豆の旅館に就職し、
着物を着て仲居として働く。

「小さいお子さんがいたら
タオルがもう一枚あったほうがいいかなとか
夕食の様子を見ながら、
明日の朝食はこれくらいがいいかなとか
お客さんが到着してから帰るまでの
全部をお世話するのよ。

で、それがはまった時とかおもしろいわけ。
お客さんが快適に過ごせたってなったら、
やりがいでしかなくて」

上原さんの「おもてなし」精神は
実は小さな頃から
高知らしい形で磨かれてきた。

「おきゃく」に「遍路」。

祖母の代から「おきゃく」と呼ばれる宴会や
家が遍路道に面していたため、
お遍路さんの接待をする家庭に育った上原さん。

小学生だった上原さんは、
大人が酔っぱらっている傍らで
熱燗を準備して持って行ったり。
「人をもてなすこと」が役割だった。

おもてなしのスキルが培われ、
大人になって
居酒屋やレストランでアルバイトをする時にも
「気が利く」として上司やお客さんから
よく褒められていたそう。

褒められると嬉しくなって、
「ほなもう調子乗るわけよ。
で、得意なことになっていく。
もっとやりたい、楽しい、みたいな」

小さな頃から知らぬ間に
家族や周りに
女将気質に育てられていたのかもしれない。

その後、旅館だけではなく
ホテルや山荘など、
さまざまな形態の宿泊施設で働き、
「経験も積んだし、そろそろ宿をやりたいな。
で、時期的にもコロナが流行りだして、
やりたいことやらないと
このまま死ぬなって思って」
と考えていた矢先、
現在の黒潮の家のオーナーが
この物件を宿として運営してくれる人を
探していた。

そこに、上原さん。

南国市出身で、
当時は四万十町に住んでいた彼女。

「宿を見てみないとわからんです。
場所によって合う合わんもあるだろうし。
見に行ってみます」と、
まだ何も活用されていなかった
空き家の状態の黒潮の家を見学し、当日、

「めっちゃいいですね!私ここやります!」
即決する。

「このおうち、めっちゃ気持ちがいい!
光がたくさん入ってきてて、
窓が多くて、風がすごく気持ちいい」
そう感じたと話す上原さん。

リビングの窓からは
入野松原の緑と優しい光が差し込む

「ここで宿をやる」と決断したのが
2020年7月上旬のこと。
それから2カ月の間に
前職を辞め、引っ越しもし、
あっという間の早さで9月10日、
「黒潮の家」をオープンさせた。

やっぱりパワフルだなと感じる。

森もあれば海もある。
近くにはサーフィンのメッカがある。
「これはイージーモードやなってなったの。
ここは、この宿では、
私が一生懸命頑張らなくても
周りが勝手にやってくれるって
最初にわかったのよ」

玄関にある看板には
「海で森で深呼吸」の文字

8年前までは県外で過ごしていた上原さん。
東京で働いていたこともある。

「ここでは、
常に自分がリフレッシュするツールが
すぐそこにあるから
めちゃくちゃ楽ちんなわけよ。
こんなにすぐ、
気分転換できる方法がたくさんあるって。
人生でこんなにストレスがない日々を
過ごしてるの初めてやもん」

東京にいれば
ちょっと疲れた時、
仕事帰りに飲みに行くとか
休日に買い物するとか
自然を感じたいと思えば遠出が必要。

でも、ここの暮らしは、それがすぐ。
すぐそこにある。

「旅行の形が昔と本当に変わってて、
“昼ビール”が一番の贅沢だったり
するわけじゃないですか。
なんちゃあせん休日。

でも、そういう余暇の過ごし方って、
まだまだ浸透していないというか。

何もせんでええ、なんちゃあせん休日って
ほんとぜいたくやなってみんなが気づいたら、
もっと楽になると思うんよね」

おばあちゃんの家に遊びに来たような
くつろげる空間でただただのんびりも良い

この宿に来て、まずは海へ行って、
敷地内に併設されるサウナにも入って、
朝は近くの静かな神社へ散歩に行く。

そんなことをするだけでいい。

黒潮の家から徒歩すぐの「加茂神社」の参道は
木漏れ日が降り注いで気持ち良い空間
宿の隣にあるサウナは
薪をくべるだけで簡単に使える

「人生が今しよくて」
と笑いながら話す上原さんの宿。

余計なことは考えず、
そんな宿にちょっとだけ身をゆだねてみると、
「人生って、しよくてもいいんじゃない?」
不思議とそう思える。

それだけで、心に風が入り、
ふっと軽くなった気がした。

Easy goingな時間、自分に会いに来ませんか?

黒潮の家」(黒潮町入野1966)
一棟貸しのゲストハウス。一日一組限定、一名から利用可能。入野海岸や入野松原、加茂神社などが近く、海のレジャーや周辺の散歩を楽しむこともできる。また、リクエストに応じて、女将による土鍋料理「土鍋ゴハン おたふく」を提供。数種類の土鍋を使いわけながらさまざまな料理を楽しむことができる。宿泊予約はWeb等から。

text Lisa Okamoto

-うみべのいやし