「タワンデーン」。
タイ語で「夕陽」という意味。
夕陽はもちろん、
2階の大きな窓から見える
きらきらとした海が印象的で
いつまでもそこに座っていたくなる。
そんなタイ料理と民宿のお店。
経営するのは、
旧西土佐村出身の野村広さん(63)と
タイ・イサーン地方出身の
アモンラット・ポンモントゥリーさん(43)。
タイ出身の奥さんは
みんなから「ネンさん」と呼ばれている。
名前に「ネ」という文字はどこにもないから
「なんでネンさん?」と聞くと、
「特に意味はないです。みんなが呼ぶから」。
わからないけど、
「ネンさん、ネンさん」と呼びたくなる。
ここで2人が生業を始めたのは
2020年12月25日。
以前、「たかはま」という民宿をしていた
オーナーからこの施設を譲り受け、
タイ料理屋を併設する民宿を始めた。
野村さんは元々鍼灸師。
高校を卒業し、
四万十市で開業して以来40年以上、
今でもずっと鍼灸師の仕事を続けている。
それに加え、
民間療法も昔から研究していたことから、
アジアへも足繁く通った。
「民間療法の研究というか
そういう興味があって、
アジアはあちこち、大体行ってます。
バンコク中心に近隣全部。
カンボジアとか、ラオスとか」
バンコクには日本人の居住者が多く
野村さんが通っていた頃は
6万人ほどいたそうで、
現地で知り合った人に
「若い世代の働く日本人たちの
ケアをしてみたら?」
そう言われ、
自身の専門である鍼灸・理学療法の分野で
起業をする。
そうして野村さんがタイや日本を行き交う中、
2人は出会う。
ネンさんのタイ料理は、
本格的だけど、日本人も食べやすい。
野村さんと出会った頃に
ネンさんが働いていたのは
バンコクにある日本の居酒屋だそうで、
「ああ、以前から料理が好きで、
日本の料理にも馴染んでたんだ」
なんて勝手に考えたけど、
「料理はしてない。ウェイトレス」
と、ネンさん。
タワンデーンのメニューが美味しいのは
「昔から料理が得意で」
「元々料理の仕事をしていて」
そんな理由を
勝手に頭の中に並べていたけど、
「ほとんどYouTubeで」
なんて言葉が飛び出してきた。
4年前に野村さんと2人、日本に来て以来、
ネンさんは
タイ人がタイ語で説明するタイ料理の動画を見て
母国の味を覚えていったそう。
「タイはみんな、
屋台でご飯を買って食べる文化。
だから、あんまり台所とかないんですよ。
冷蔵庫も日本みたいな立派なのはない。
それよりも、買ってきて食べて、
その日のうちに終わる、みたいなね」
その方が逆に色々なものを食べられるから。
それが、タイの食文化。
だから、ネンさんも同じ。
タイにいた頃、
日常的に食事を作っていたわけではないそう。
でも、美味しいご飯の味は覚えている。
だから、作れる。
「食べるのは好きだからね。
美味しい料理の味は覚えているから。
調味料を色々試しながら、
その味に近づけることができる」
野村さんがネンさんのことを話していると、
「暑いね。暑くないですか?」
大きな窓に西日が広く差し込み、
暑そうに目を細めるネンさん。
午後2時に始まった取材は
あっという間に2時間が経ち、
青々としていた海は
すでに薄いオレンジ色に変わり始めている。
夕陽が、近づいている。
―後編に続く―
「タワンデーン」(黒潮町伊田3)
タイ出身のネンさんが作るタイ料理を味わえるレストラン。自家製ハーブやタイの調味料をふんだんに使い、本格的でありながらも日本人も食べやすい味。カオマンガイやパッタイなどの定番メニュー、ネンさん出身のイサーン地方ならではの料理、季節限定のメニューなども提供。民宿を併設していて宿泊も可能。
Text Lisa Okamoto