そんな大林夫妻は、毎年春、入学式が終わった頃に小学生を受け入れ、イチゴ狩りの体験にも協力しているという。
「一般のイチゴ狩りは受け入れてません。子どもが通っていた小学校は受け入れしています。新入生と上級生が『同じ釜の飯を〜』じゃないけど、みんなで同じものを食べたら仲良くなれるかなと思って」(理)
入学式が終わり、遠足を間近に控える4月。子どもたちが少しでも環境に慣れ、仲良くなれるきっかけになるようにという理恵さんの思いが伝わってくる。
サーフィンをきっかけに高知への移住を決め、農家となるため黒潮町へやってきて20年少し。今でこそ移住者が多くなったうみべの町で、2人は彼らの先駆けのような存在として暮らしてきた。
移住したい人には「めっちゃおすすめできる」というここでの暮らし。
2人は20年かけ、「こっちの人になれて良かった。めぐり合った人がみんな良い人で、受け入れてくれて良かった」とここでの暮らしを振り返る。
そこには、2人の「運」のようなものも紐づいている。
「良い人たちと出会えるかどうかは『運』。本人次第やと思うな。でも、それプラス、とにかく地元の人たちとお話をすること。自分が生まれ育った場所とは喋ってる言葉も全然違うし、『何言ってるのかわからん』っていう時もあると思うんやけど、それにへこたれてそれから喋らへんってなったら終わりやと思う。それでもとにかく話すこと。それに、この人(博さん)は、まずは素直に聞き入れて、あんまり自己主張せん。それが大事やないかなぁ」(理)
無駄な話だと思っても、無駄な話はない。まずは素直に聞き入れて、実際にそれをしてみる。それは、2人がまだまだ新米農家だった頃から実践してきたことだという。そうして、農家としても、地域の一員としても、この町でやってこられた。
あたたかな笑顔を見せ、あっけらかんとしているように見える大林さんご夫妻だけれど、この20年の間にきっとさまざまな変遷と努力があったのだろうなということがわかる。そして、努力だけではなく、あっけらかんとしているように見える2人の気さくな人柄が「良い人とめぐり合う運」を引き寄せてきたのだろう。
これから先のことについて、理恵さんはこう話す。
「いかに手間を省いていくか。人口も確実に減っていくし、今でもイチゴもタバコも人に手伝ってもらわないとできない。どうやって省力化していくかがこれからの課題かな」(理)
15歳の息子さんは、「実家を継ぎたい」と話すことがあるという。
「学校とかで将来の夢はって話す時があるじゃないですか。その場しのぎかもしれないけど、『実家を継ぎたい』とかって言うみたいなんですよ。息子にはどちらかというと社会を見てきてもらいたいけど、『農業やりたい』ってもしもなった時には、その受け皿になるような構えができたらなと」(理)
「まぁ、だから省力化やな。人を頼るのも大事やけどね」(理)
未来にもしも自分たちの生業を引き継ぐ時が来たら、その時のことを考えながら、これからの人生をまたここで紡いでいく。
大林博さん・理恵さんご夫妻
大阪府出身の博さん、高知県安芸市出身の理恵さんは、移住前に住んでいた兵庫県神戸市から2001年に黒潮町へ移住。移住前から波乗りで毎週末高知県へ通っていたことがきっかけ。黒潮町へ移住してからは農業を生業に。現在はイチゴ・タバコを栽培する農家。イチゴは「おおきみ」という幡多地域のブランドイチゴを栽培。
Text Lisa Okamoto