うみべのいやし

地域と旅人が出会う場所(後編)

前編はこちらから

築130年。
みかん農家の住まいだったという
古民家に巡り合った。

「見学に来た時の状態は悪かったですね。
でも、中に入った時に納屋の梁が見えてきて
あ、いいなと思いました。
それと、瓦屋根も綺麗だったんです。
家の形や規模もちょうど良かったし、
単純に人が住むだけじゃなくて
宿泊などいろんなことができそうだなと」

母屋2階から見える1階共有スペース。
立派な梁が目立つ。
見学の時から「綺麗だった」という瓦屋根

この物件にたどり着くまでに
たった6件の見学で
そう見極めることができたのは、
設計事務所での経験はもちろん、
川島さんが自身の感覚を信じているから。

「デザインは元々独学・・・
というか、自信があるんですよね。
こんなこと言ったらあれですけど」
見てきたもの、感じたもの、
これまでの人生で培ってきたものが
川島さんの中で
揺らがない自信となっているのだろう。

そんな川島さんのセンスが
組み込まれたゲストハウスは
田畑が広がるこの地域の美しさに溶け込み、
その魅力をさらに引き出しているように感じる。

加持ノ宿の母屋入口
共有スペースには知人が飾ってくれたという花。
シンプルな内部のアクセントになっている。

「ここの地域には
日本の原風景が残ってますよね。
田んぼや畑、小川もあって、
海もいいけど、
それだけではなく色んなことが楽しめる場所」

母屋2階からは田園風景を楽しめる
宿の前の小さな水路。
静かに流れる水の音が聞こえて気持ち良い。

昔からある地域の良さに
川島さんはこの宿を活用して
さらに魅力を加えていこうとしている。

すでに今年3月にはマルシェを、
5月上旬にはヨガのイベントも行ったり。

また、5月末からは、
離れとして利用していたスペースを
「Cafe&Bar離れ」としてリニューアル。

ケーキなどのスイーツや軽食、
コーヒーやアルコールを提供する。

「Cafe&Bar離れ」内部。
内装やインテリアも気持ち良い空間。
キウイのパフェと牛乳出しコーヒー。
田んぼが見える窓際の席で。

「宿泊だけじゃなくて、
いろんな形に変化していく宿でありたい。
町外からの宿泊客や地域の人など、
いろんな人が来て、
多様な使われ方をしてもらいたい。
可能性のある場所になればいいですね


川島さんは黒潮町を
「ポテンシャルの高い地域」と表現する。

そんな町で営む加持ノ宿にも
わくわくする未来が広がっている。

「黒潮町の雰囲気が好きですね。
この町は高知県西部の玄関口で、
黒潮町に入った時の空気感は
なんだかほかと違う気がする。
手つかずの自然もあって、
海外っぽいような感じもある」

東から黒潮町へ一歩踏み入れ西に15分。
トンネルを抜けると左手には海が広がり、
そこにはたしかに海外のような雰囲気がある。

さらに西へと進み15分。
海の見える大通りから
ちょっとだけ山あいに入った場所にある
この宿の空気感は
なんだか少しすがすがしく感じるはず。

手つかずの自然を生かしながら、
そこに洗練された空気が広がる。

「元々あるものの邪魔はしないように。
でもミニマムに。むだなものはとって」

加持ノ宿の内部にはそんなこだわりがある。

でも、それは内部だけではなく
宿の存在自体に表現されているような…。


気持ちの良い空間だった。

「加持ノ宿」(黒潮町加持2672)
昨年9月にオープン。築130年の古民家をリノベーションし宿泊施設として営業中。マルシェやワークショップなどのイベントでも利用される。5月末には離れとして利用していた空間を「Cafe&Bar離れ」としてオープン(営業時間13時~19時、不定休)。宿泊予約の受付時間は12時から21時まで。不定休。

text Lisa Okamoto

-うみべのいやし