うみべのごはん

日本一のグリーンレモン(前編)

「先駆者の話」

うみべの町のレモンは緑色。

日本一の産地化をめざして
下村昌幸さん(57)が
「グリーンレモン」栽培を始めたのは
今から10年前。

日本一の産地化をめざしてグリーンレモン栽培に励む下村さん
(2022.4 撮影)

「人と同じものを作るのは嫌」

チャレンジングな下村さんの挑戦は、
平成22年に始まった。

ハウス栽培のグリーンレモン。
収穫時期は7~9月。

黄色く色づく前の段階で収穫をするため、
色はさわやかな緑色。
味ももちろんさわやかで、酸味や苦みが際立つ。

見た目もなんだかおしゃれで、ちょっと今風。

「黒潮グリーンレモン」
箱のデザインも爽やか

そんなグリーンレモンを
下村さんや黒潮町、農業公社などが協力し
「黒潮町を日本一の産地に」と取り組んでいる。

でも、12年前に下村さんが
黒潮町での栽培を始めるまで、
ここにはグリーンレモンは存在しなかったし、
全国にも産地はほとんどなかった。

それまでの黒潮町のハウス農家といえば、
キュウリやミョウガなど、
春に収穫を終え
秋に次期作が始まる作物の栽培のみ
という形が多く、
夏の間はいわば手があく状態だった。

稲を育て、
それを夏から秋に収穫する
というパターンはあったようだけど、
夏の間は収入が少なくなる。

でも、ちょうど今の時期に収穫される
グリーンレモンで
夏のあらたな収入が生まれた。

「今、自分は農業をしていて、57歳で。
前職は高知県農業改良普及員だったんだけど、
辞めずにそのまま続けていたら
あと少しで定年になる頃。
今も変わらず続けていたら、
それなりの収入だってあるし
退職金だって入る。

でも、辞めた自分は、
普通の農業をしていたら
その人たちに負けたような感じになる。
それは嫌だよね。

リスクを負っても、無理をしてでも、
「夢を語れる農業」をしたい」

そんな強い思いから、
「誰かが道を切り開いていかないと」と
愛媛県では8割以上失敗するといわれていた
グリーンレモンの産地化に向けて始動。

元々、高知県は野菜の栽培が盛ん。
野菜はしなければいけない作業がたくさんある。
でも、果樹はそれに比べると
手をかける時間が少なくてすむ。

下村さんは平成9年に黒潮町で就農してから
最初はミョウガの栽培をしていたけど
平成22年にグリーンレモンの栽培を始めた。

「ゴール」となる樹は、愛媛で見てきた。

「あの樹のように育てるには
どうしたらいいのか」
下村さんは、
常に自身が育てるレモンの樹を見つめ、考えて。

放っておけば
5mあるハウスの天井まで伸びていくレモンの樹を
ただ切ってしまうのではなく、
タイミングを見計らって曲げていったり、
害虫防止のために使用する油の濃度の加減、
除草剤は使わず地道な草引きの作業など…

常に手をかけ試行錯誤しながら
グリーンレモンの栽培方法を
5年をかけ「マニュアル化」してきたことで
現在、黒潮町を中心としたこの地域には
12軒の農家が所属する
「黒潮グリーンレモン研究会」がある。

研究会に入れるのは、40代までの
「柔軟」な世代。

50代以上は
「言うことを聞かないし
こだわりがあるからいれない(笑)」。

今シーズンの出荷基準や果汁量を確認する「目慣らし会」に参加する
黒潮グリーンレモン研究会の皆さん

「黒潮町を日本一のグリーンレモン産地に」
その目標を広報紙の取材で聞いた2020年。

あれから2年が経過するけれど、
今も目標は変わっていないし、
「ほぼ一位なんじゃないかと思うけど、
さらにのばしていきたいよね」とも。

「日本一はあくまで指標でしかないんだけど、
明確な目標があるとみんな頑張れるじゃない。
「日本一のレモンを作っているんだ」とか、
「大方で農業をしていることって
他よりいいな」とか。
グリーンレモンを通じて
そういう農家のマインドを作っていきたい。
元気な農家を増やしたい」

自分自身も元気なうちに、
グリーンレモンによって
「いい循環」を
うみべの町の農業に生み出そうとしている。

あの時、よく決断した。
紆余曲折しながら、壁にもぶつかったけど、
後悔は全くない。

自分の決断を
下村さんは力強く振り返る。

6月末。奥さんと2人、朝7時からグリーンレモンの収穫作業を行う下村さん

前職の頃よりも、
うみべでくらし、
グリーンレモンを栽培する現在の下村さんには、
「心の余裕」はあるかもしれない。
でも、「夢」への強い思いは誰にも負けない。

その思いが果汁にぐっと詰まった
うみべの町のグリーンレモンに、
はっとさせられる夏の始まり。


【グリーンレモン栽培の年間スケジュール】
1月~2月
白くて可憐な花が咲く。

枝の間引きをしながら、
2カ月に1回程度、枝を支柱に沿って曲げる。
これを1年間繰り返す。

4月
着花。小さな実がこれから膨らんでいく。

4月。グリーンレモンの実はまだ小ぶりで可愛らしい。

7月~9月中旬
収穫。
下村さんのハウスは温度設定が高いため
6月下旬から早めの収穫が始まる。

収穫期のハウスに入るとグリーンレモンの爽やかな香りが広がる

収穫後
木を休ませ、12月に次期が始まっていく。

*そのほか、1年を通して草引き作業がある。除草剤は使わないため、最初の数年間はほとんどが草引き。

ー後編に続くー


「黒潮グリーンレモン」
名前のとおり緑色のレモン。一般的な黄色いレモンは冬季がシーズンになるが、グリーンレモンは黄色く色づく前の段階で収穫を行う。その分、グリーンレモンならではのフレッシュな酸味やほろ苦さを感じられる。黒潮町では、平成22年に下村さんと黒潮町農業公社の篠田真也さんが栽培を始め、その5年後、当時の町長に「産地化」のための働きかけを行い、町としてグリーンレモンの産地化へ向けて取組を開始。
黒潮グリーンレモンは、町内および県内の直販所などで購入可。直接注文にもその都度対応しているとのこと。

下村 昌幸さん(57)
黒潮町出身。前職は高知県職員で農業改良普及員として農家を指導する立場に。その後、H9年に黒潮町で就農。当初はミョウガ農家だったが、H18年にせとか、H22年にグリーンレモン栽培を始め、現在はせとかとグリーンレモンの2本柱。グリーンレモン栽培の先駆者的存在として、後輩農家の育成も行っている。

text Lisa Okamoto

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