うみべのごはん

日常に寄り添う器とおやつ(後編)

「『日常使いの器』をと思って作っています。お金がなくてもご飯茶碗一つあったら、なんか、いいですよね。やっぱり量産したものと、一つひとつ手作りのものは全然違う。『料理があっての器』と思っているので、料理の邪魔にならず、手作りの良さがみんなに少しでも伝わったらいいなと思っています」(弘晃さん)

お客さんに器の説明をする弘晃さん

遺跡発掘の際に地面の下から出てきた陶器を見て、「『粘土って、焼いたらこうなるんだな』っていう当たり前のこと、すごくシンプルなことなんですけど、『僕のやりたいことはこれだな』」、そう感じたと話す弘晃さん。

自分が感じたままに、作りたいと思うものを作り続ける弘晃さんだけれど、お客さんからの「こうしてほしい」といった声に応え作るものもあるという。

長年の間、人気を博し作品の7~8割を占めるという「塩壺」。天日塩作りが盛んなこの町ならではの商品。始まりは周囲からの声だった。

「東京にいた時は、塩を作っている町に来るとは思っていなくて。知り合いに言われて、『じゃあ作ってみよう』ってなったことが最初でした。ちょうどその後、地域のイベントがあって、初めて作った塩壺を出したらほとんど売れてしまったんです。その時、『あ、これを作っていこう』と思いました」(弘晃さん)

今、作るのにハマっているという平皿もそう。

「元々、朝ごはんを提供するお店から、ワンプレートでご飯を出せる平皿を作って欲しいというオーダーをいただいて。そこから商品としても作るように」

塩壺にはクジラやチドリの取手が施されている
最近ハマっているという平皿(中央下)

周囲からの声に応える弘晃さん。それでも、「自分が納得する」というこだわりも欠かさない。制作した陶器は、日常生活の中で実際に使ってみて、「もっとこうした方が良いかも」と、例えばコップであればもう少し高さがある方が良いか、どのくらい飲み物が入るかを確認し改良もする。

自分が納得のいかないものを使わせたくない。お客さんの日常には、良いものを。

「それがないと、自分の腕や技術も『ああこれでいいか』ってなっていくし。そこはしっかり厳しくしています」(弘晃さん)

柔らかな雰囲気、ゆったりとした口調で話す弘晃さんの中には、お客さんの日常に寄り添おうとする真摯な心が見える。

ご飯茶碗を製作中

焼き菓子部門を担当する志乃さんも、周囲の人たちの暮らしや心に優しさを届けようとしているところは同じ。

多様な働き方が増え、SNSが発達し、個人でも美味しい料理やお菓子を作る人が増えてきた昨今。

「結構今って、美味しいお菓子を作る人がたくさん出てきて。全然、私、敵わないんですけど。でも、私の場合は、とにかく食べた人に元気になって欲しいんです。お昼を食べに行くお店で、お昼休憩中の他のお客さんとかが、『はぁ』ってため息をついていたり、コロナの時とかは余計に大変そうだったり。そういう時に、『これを食べられるからちょっと頑張れる』とか、そういうお菓子を作れたらいいなって」

そんな人たちに日常の中で元気を出してもらいたい、「自分のおやつ」として食べてもらいたいからこそ、買いやすい価格で提供している。

「シフォンケーキ」は日常屋の看板商品。
オープン当初から作っているという。
こちらもオープン当初から作っている「スノーボール」

そんな理由に加えて、志乃さん自身が感じた日常の中の尊い瞬間も影響している。

「父が闘病中、あんまり外出したりできなくなっていて、友だちや知り合いの人がよくうちに来てくれていたんです。その時に、一緒にご飯を食べたりお茶を飲んだりする時間がすごく嬉しかった。誰かのところへ行く時に、ちょっと持っていける、すぐに持っていけるもの、買いやすいものをっていうのは、その時に思いましたね」

誰かの日常の中へそっとひとつ、甘さや優しさを加えられるような、そんな普段使いのお菓子を。志乃さんの優しさがお菓子作りへ表れている。

日常への優しさが詰まった2人が、この町の日常の中で好きなところ。それは、海。工房からも歩いて10分ほどで浜へとアクセスできる。日常の中に「海」や「浜辺」があるところが良いと話す。

「やっぱり、合ってる。『地元の人に合ってる感じ』なんだろうな。なんか柔らかい感じがするかなぁ」

小さい頃からずっと近くにあった佐賀の塩屋の浜は、同じ町内の他の海ともまた違う。砂浜の広さや波の大きさではなく、浜がそこに住む「人」に合っている、似ていると表現する志乃さん。日常に寄り添うことで、見えてくる景色があるのかもしれない。

お店に来てくれたお客さんと接する志乃さん
お菓子は季節の商品を含め
15~16種類のラインナップが揃う

「毎日『当たり前』って思いようことが、本当にありがたかったり、大事だったり。毎日会いよう人だってそう。『日常を大切にせないかん』っていうのもあるし、やっぱり、『日常こそ楽しい』っていう気持ちがすごくありますね」(志乃さん)

日常を優しく包んで、日常に愛を込めて。いつものあの人に、会いに行こうと思う。

日常屋(黒潮町佐賀535)
「人々の日常に寄り添えるようなものを」と、清藤さんご夫婦が営む陶器とお菓子のお店。工房は毎週土曜日午前8時30分から午後3時頃までオープン。工房での販売のほか、「海辺の日曜市」など町内外のマーケット等へ出店。そのほか、道の駅などでも購入可能。

text Lisa Okamoto

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