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木工工房「ATOM HANDS」を営む
松田勤さん・志津子さんご夫婦。
2人の…
というよりも、
松田家の歴史が刻まれるログハウスには
ゆたかな暮らしが詰まっている。
喫茶店と間違われて
知らない人が入って来たこともあるという
松田家の住まいは
1991年に海が見えるこの地に誕生した。
勤さんが教員だった頃、
授業の研究会で訪れた九州で
ログハウスの国民宿舎に泊まった時、
「こんな家を建てよう」
そう決めて、
地元であるこの地に居を構えることとなった。
でも、肝心な大工が地元では見つからない。
「この地域にも大工はたくさんおったけど、
ログハウスを建てたことのある人は
おらんがよ」
ログハウスは生木を使うため、
年月が経つと直径が3%ほど縮むそう。
だからこれを想定して建築することが難しい。
結局大工は見つかるのだけど、
勤さんは「見つからなかったら自分でやろう」
そう考えていたそう。
木工好きの父親の口癖は
「人がしようがやけん、自分でもできる」。
誰かが作れるのであれば、
何とかしたら自分だってできるだろうと。
そんな生き方の父と
長年をともにしてきたからこその考えだろう。
「うみべのログハウス」の暮らしは
手間がかかる暮らしだそうで、
手入れが必要になる。
玄関を開け10秒で浜に下りられる
最高のロケーションだけど、
その分、潮の影響も。
「台風の時なんかものすごい。
近くの知り合いから
「お前んとこは潮をかぶってるけど大丈夫か」
と電話がかかってきたりする。
外壁は潮や雨水でだめになるから、
塗装したり。
窓には塩の結晶ができるから
シャワーで流したり」
ログハウスと海の間には
綺麗な庭もあるけれど、
植物は潮に弱いらしい。
「試しながらいろんな花を植えたけど、
すぐだめになるね。
その中でもムクゲは残っている。
生命力が強いんだろうね」
なんだか理科の実験のようでまたおもしろい。
そんな風に手間がかかるログハウスだけど、
「手間が好きという人にはおすすめですよ」と
その建築を夢見る人へは話すという。
「ログハウスは断熱性があって、
冬はあったかいし、
梅雨は湿気を木が吸ってくれるから
中に入るとからっとしている。
それに、今でも「生きている」。
鉛筆を木の割れ目に入れておくと、
ある日抜けなくなっていたり」
子ども心をくすぐられ、
鉛筆が抜けなくなる様子を想像して
わくわくする。
そして、ログハウスでのくらしを
さらに楽しくさせるのは
「うみべ」に住んでいるから。
2人は昔から海遊びが大好きで、
SUPやウィンドサーフィンも楽しむ。
さらに2人は貝採りの名人。
あたたかくなれば
アサリやアナゴなどを採りに行くそう。
海が見えるログハウスのキッチンから
いつでも海の様子を見て、
海に遊びに行くタイミングを見定める。
「大潮が月に2回くるでしょう。
その時は、いつもに比べて
一層香りが強くなるの。
磯の香り。
海が、磯の香りが呼んでいるのよね」
「遊山」という言葉があるけれど、
週末にお弁当を持って山に遊びに行くように
2人にとっては
小さな頃から海が遊び場だったし
「遊山に行こう」といえば海へ出かけていた。
「海がここにあるのは最高。
日々変化があって、
毎日表情が違うから楽しい。
ここの暮らしは
その変化を直に素肌で感じられる。
気持ちも大らかになる」
2人には3人の子どもがいて、
ギタリスト、パティシエ、アクセサリー作家と
その子どもたちもまた
アーティスティックな生活をしている。
「2人がやりたいことをやれと
いうてくれたおかげ
と子どもたちは言ってくれるね」
ログハウスができる前、
まだ屋根がない時には
家族でテントを張って泊まったり。
勤さんが作ったカヌーで
一緒に四万十川を下ったり。
木の香りや海の香り。
自然のにおいを常に感じながら営んできた
松田家のくらし。
ログハウスから見渡す海上には
何もたたずむものはないけれど、
うみべのくらしで培ったものたちは
家族それぞれの中で大きくなり
ゆたかな暮らしをつくりあげている。
「ATOM HANDS」(黒潮町有井川150)
ふるさと納税の返礼品などでも人気な「IRECHOKIYA BOX」やちゃぶ台、ダイニングテーブル、椅子などを始めとした商品販売のほか、オーダー制作にも対応。「海辺の日曜市」(毎月第2日曜日開催)などにも出店している。営業は午後1時~午後6時(冬季は午後5時まで)、定休日なし。
text Lisa Okamoto