うみべのあそび

勘と覚悟と(後編)

―前編はこちらから―

「船頭は、右行くか左行くかを決めるだけ」

今シーズンがどんな漁になっていくかなんて、
出港していく時には想像もつかない。

「今年はこうしよう」なんて、
考えることもない。
ただ、舳先をどちらへ向け、進んで行くのか―。

佐賀港で鹿島を見つめる洋次さん

「船のグループみたいなのがあるがやけど、
同じグループの中で
3億を超える記録を残したのは
これまで3人しかおらん。
今年は自分もその1人になることができた。
前人未踏の…あ、3人おるがか。
前人3踏?はは」

そんな冗談を言いながら、
船頭になって以来の目標であった
「3億」という数字を
過去最年少の記録で達成した洋次さん。

「親父は人が休みよう時でも出て行ってた。
安全な範囲で、
この日和やったら大丈夫やろうっていう
ギリギリのギリギリまでやないけど。
それはちゃんと親父の経験で裏付けされてて。
僕もそうですね。
船員には「休ませてくれよ」って
思われることもあるかもしれませんけど」

水揚げ時の様子(昨シーズン)
(写真提供:明神水産(株))

父の姿から学んだ漁場との向き合い方。
そして、船頭である今の洋次さんには
洋次さんらしいチームの作り方がある。

「僕はあんまりぎゃあぎゃあ言わんかな。
とやかく言ったり、細かいことは・・・
それがええところでも悪いところでも
あるかもしれんけど」

昔からとても明るい性格で、
自然と周りに人が集まって来る。
「洋次といたら楽しい」
周りがハッピーでいられる、
そんな存在だったという洋次さん。

そう同級生の拓丸さんに言われて
ちょっと照れながらも
「船員もそれは言うてくれるかな。
一番下の船員の子がすごいなついちょう。
“洋次推し”(笑)」

何度もおどけて見せてくれる、
洋次さんの笑顔が愛らしい。

昨シーズンの漁を終え、笑顔を見せる洋次さん。
宮城県気仙沼へドックのため入港。
(写真提供:明神水産(株))

でも、楽しくて、おどけているだけじゃない。

魚が釣れない時には、
「何であっちの方ばかり
探してしもうたがやろうかあ」
「追いかけまくって途方に暮れる日もある」
しっかり後悔もする。

水揚げのため宮城県気仙沼の港へ入港する
第23佐賀明神丸
(写真提供:明神水産(株))

そんな日々を繰り返しながら、
漁場を自分で探していく、
釣れる場所を求めていく。

色んなタイプの船頭がいるけれど、
洋次さんは開拓派。
まだ他の船がいないところで
漁場を見つけたいという。

そうして釣れた時は、最高に気持ちが良い。

「大漁・豊漁の時は
やっぱりやりがいを感じるね。
アドレナリンがどばどば出る。
すごいっすよ。ふふふ」

そして最後の頼みは勘。
「水温とか潮目もあるけど、やっぱり勘よ。
それと、神頼み。
「これ釣れたら帰れるき、神様お願い~」
言うて」

きっと、本当にそんな世界なんだと思う。

漁場に着くまで、釣れるかどうかはわからない。

カツオ鳥が増えてくる。
カツオが水面を真っ白に
ジャブジャブと沸かしている。
反対に、水面が凪になる時もある。

そんなひとつひとつのサインを見ながら
「どいたあ、こらあ」と
船員たちの声が増してくる。

洋次さんの口からふっと出た
「行くまでのドキドキ。船員のワアワア」
という言葉で
その世界へすっと吸い込まれていきそうになる。

今シーズンの出港は2月26日に決定した。

「3億を達成したけど、
漁師っていうのは
そんながに浸れるのは1~2カ月ばあ。
年明けたらまたすぐにゼロからスタートやもん。
「去年良かったき今年もえい」っていうことは
必ずはない仕事やもんね」

「ひたすら食らいつくしかない。
動きよらな死ぬ。働かな」

「カツオみたいに」
なんて、最後までおどけながら。

第23佐賀明神丸の4年目が、また始まる。

明神洋次さん(40)
第23佐賀明神丸・漁労長。佐賀地区出身で、祖父・父と代々カツオ漁師の家系に育ち、自身も20歳でカツオ一本釣り船「明神丸」へ乗船開始。8年前に第11佐賀明神丸の漁労長となり、現在は第23の漁労長を務めて4年目。昨シーズンは水揚げ高3億円の目標を達成。同じ規模の船では最年少記録。

Text Lisa Okamoto

-うみべのあそび