うみべのいやし

お魚が繋いでくれたご縁(後編)

-前編はこちらから-

漁家民宿おおまちを営む明神好久さんは、
73歳にして今もなお現役漁師。

自身が釣って来たカツオを手際よく捌くおんちゃん。
家の外に炊事場があるのも漁師町らしい。

「じいやんとおやじと、3代目か。
自分も中学校出て、それからすぐ。
学校行きながら
「はよ漁師になりたい」思うてた。
今でも悔いはない。良かったと思う」

中学卒業後、まだおばちゃんと出会う前から
すぐに大型のカツオ船へ乗船し
それから20年間、
ほとんどを海の上で過ごした。

「カツオ船におったら四季がないわけよ。
エンジン場におった時には
ダダダダダダダダダダいう機械音。
そんなしよったら、
畳の上で寝て、
春になったらゆっくり花見をして、
そんな生活がしたい言うてね」

夏に1週間の休みがあって、帰ってくる。

その時に近くの田んぼから
夜になると
蛙の「ゲコゲコ」という声が聞こえる。
「それが嬉しい」。

でも、
「魚を釣りたい」「一生懸命やらないかん」
その一心で、当たり前の日々のことも
犠牲にしないといけない。

「おんちゃんだけやなくて、みんながそうよね。
すごいことよね。
ずっとそれを続けている人もいるし。
おんちゃんの場合は畳の上で寝てみたいとか
5歳の子どもと一緒に生活したいとか
2人目も欲しいしとか。
そういうことに気付いたがよね。
みんなが気が付かんわけやないし、
それが悪いということじゃあないで。
おんちゃんの場合はそうやったということ」

その話を聞いて、
「ここらの家はみんな漁師」
と言っていたおばちゃんの言葉を思い出し、
漁師とその家族の暮らしに思いを馳せる―。

おんちゃん、おばちゃんの出会いは
民宿の目の前。
当時は田んぼが広がっていて、
春、野すみれが咲いていた。

「赤い糸で結ばれちょったという話を聞くやろ?
あ、こういうことやったがやろうか思うてね」

2人が20代前半の頃。
田んぼの真ん中ですれ違う。

「いや私、この人と結婚する思うた。
そいたらおんちゃんもふっと振り返って。
3年後にはお嫁さんになっちょったもん」

おんちゃんがたまたま帰港していた時に
すれ違い、
その後、手紙を書くものの
港へ寄らないことにはおんちゃんに届かない。

おばちゃんの書いた手紙は
3カ月後にようやくおんちゃんの元へと届き、
下宿をしながら保育士をしていたおばちゃんが
1週間振りに自宅に戻った土曜日、
「これをきっかけに文通してもかまん」
という返事を確認できた。

それから結婚して20年。
おんちゃんは大型船を降り、
家族との暮らし、当たり前の暮らしを
大事にしようと
1.6トンの自分の船を持ち、
日戻りでカツオ漁をするようになった。

「今日は2時半ばあに出て、
漁は夜明けから。しらんできたら始める。
カツオはしゃくりやかぶし、引き縄とかで釣る。
今年のカツオは太い。今日のも6~7kgばある。
まあ、美味しいのは2~3kgのやね」

宿泊客に提供するカツオは
いつも自分で釣りに行き、
ぱっぱと捌いて藁焼きの体験もさせてくれる。

カツオはおんちゃんが節にしてくれ、
宿泊客はそれを藁で焼く体験ができる。
地元・佐賀の天日塩とたっぷりのニンニク・ネギで
うまみたっぷり。

「魚釣って自分のもんになる
いうところがえいね。
自分がやったばあ自分のもんになる。
釣る時はやっぱり面白い。
死ぬまで一生漁に出る。
やめたらすぐ死ぬると思う。でも、死ぬるまで。
身体が続く限り」

「漁師をやって
後悔はないけんど、航海はしようで」
そんな冗談を言いながらも
やりがいを話してくれる。

おばちゃんはそんなおんちゃんを心配もする。

「いつもはとぎ(連れ)がおっても、
一人で行かないかん場合があるろ。
そんな時らあには心配する。
ぎっしり、1時間ごとに
「大丈夫?」言うて電話したりよね。
ほんまにね、寝れんときもあるよね」

ここらの家はみんなが漁師。

今もカツオ漁を続ける漁師、
その帰りをこの港で待ち続ける家族、
昔漁師だった人とその家族たち。

「今でも頑張って
大型船に乗りゆう人らは尊敬する。
カツオ漁は廃っていきようろう。
それでも頑張ってくれよう人らはほんとに。
この町の遺産やに。
ほんじゃきね、カツオ船が帰って来た時には
「あぁ、本当にご苦労さん」いうて。
自分くらもやっちょうき、
厳しさを知っちょうき、
そんな気持ちが生まれてくるがやろうね」

お客さんとの出会いも
漁師町の家族、仲間も
ひとつひとつが大事なつながりで、大事な財産。
唐草のようにずーっと、つながっている。

「けどおんちゃんはね、機関長やりよって
金は稼いだかもしれんけど、
全部飲んでしもうてなくなった。
誠に申し訳ございませんでした」

「ここ(おんちゃん)へ向いて
家が一軒建っちゅうがやき」

昔を振り返り
土下座の真似をしておどけるおんちゃんに
すかさずノリを合わせて
土下座を受けるおばちゃん。

「底なし」。
楽しい2人のやり取りに笑いながら、
大酒飲みの漁師のイメージは「まさに」
という具合で
どんどんビールが消えていく夜―。

おばちゃんの作るイヨ飯。
魚の出汁と身でどんどん箸が進む。
メジカのつみれ汁。
これがお酒と合って最高に美味しい。

翌朝、早朝6時。

朝日に照らされた港で
竹竿を片手におんちゃんと2人、釣りをする。

「えー!すごい、おんちゃん。釣れたぁ!」
「おお。日頃の行いがえい!」

「2~3匹」と思っていたけど、
結果10匹以上の
アジとエバが入ったバケツを片手に
家へと戻る。

朝ごはんの時間を心配したおばちゃんが
自転車で呼びに来ていた。

おんちゃんの船「泰史丸」が停留する港で
おんちゃん手作りの竹竿で釣りを体験。
釣りから帰って来ると
朝ご飯を用意してくれてた。
朝からアマダイなんて、贅沢だなあ。
朝ご飯をいただく傍らで
「ちょっと揉んでや」とおんちゃん。
それを見ながらほっこり。

漁師を「荒くれ者の~」なんて、
誰が言ったんだろう。

いや、おんちゃんにも
荒くれ者の時代があったのかな。

おおまちで2人と過ごす時間は、
なんてあたたかくて、
可愛げな時間だっただろうか。
そんな風に思う。

漁家民宿おおまち」(黒潮町佐賀796-1)
2009年開業。現役漁師の家の暮らしをそのまま体感できる民宿。朝夕には、おんちゃんが釣って来た魚料理やおばちゃんの手料理など、漁師町ならではのごちそうを味わうことができ、カツオの藁焼き体験も可能。港へは徒歩3分ほどで、早朝にはおんちゃん手作りの竹竿で釣りの体験もさせてもらえる。予約は電話(0880-55-2353)で1週間前までに。

text Lisa Okamoto

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