うみべのごはん

Coffee is more simple(前編)

【コーヒーのこと】

うみべの無人駅で楽しめる"sunlife coffee"

「楽しみ方は、もっとふわっとしていていいんじゃないかなと思うんですよね」

彼の世代の生き方って、ものすごく良いなと思う。

うみべの無人駅で「sunlife coffee」という
コーヒースタンドを営むのは、
斉藤成希(さいとうみずき)さん(24)。

2015年頃、日本のコーヒー業界にも
サードウェーブが到来した時代があった。

産地や生産者をクリアにして、
キーワードは「トレイスブル」、「サステナブル」。
味わいは、浅煎りが主流。

2020年3月。
彼が無人駅にコーヒー屋を構えた当初、
自身もその流れに乗ってコーヒーを提供していた。

高校卒業後、理学療法士をめざして大阪の専門学校に進学した彼は、
夜な夜な国家試験の勉強をする中、
「おともになれば」と大量にコーヒーを購入した。

でも、コーヒーのことは何も知らなかった。
「インスタントだと思って買ったら、粉で。
お湯をかけても溶けないし、どう入れるかも知らなかったんですよね」

コーヒーを入れるためには
あの道具がいる、これもいる、
そうしていくうちにコーヒーの魅力にはまっていった。
そしてその頃、ちょうどサードウェーブが流行中だった。

浅煎りコーヒーを専門にして
人気が出ている東京のお店にインスタグラムで出会い、
「おいしいのに、なんで地元では人気がでていないんだろう。
こういうコーヒーを自分のお店でも出したいな」。

そう思うようになり、大阪から帰郷後、
理学療法士の試験も控えていたため、
4カ月という期間限定で自分のお店を始めた。

コーヒーの淹れ方は独学で習得。
最初こそ、コーヒー豆はすべて仕入れて、
当時のコーヒーのスタンダードに則って営業をしていたけど、
今、彼のお店で出されているコーヒーは
手鍋を使って彼が自ら焙煎している。

小さな店舗の一角で
これまた小さな手鍋を15分ほど振り続ける。
一度の焙煎でようやく1袋と少し分の
豆が焙煎できる。

そしてそのコーヒーには、とてもシンプルな名前がついている。

「海」「風」「花」。

「風」は苦みやコクもありながら、甘みもあって
落ち着いた印象。

「楽しみ方はもっとふわっとしていていいんじゃないかなと思うんです。
色んな情報を知らなくても、おいしいコーヒーはおいしいじゃないですか」

そんな考えに行き着くようになった。

産地なんか知らなくたって、コーヒーっておいしい。
直感的に思うことが大切。

「グアテマラのなんとか農園の~」なんて書いてあるより、
「海」、「風」、その方が覚えやすい。

うん。わかる。

今日は「ブラジルの~にしようかな」なんて楽しみ方もいいけど、
ちょっと景色を想像しながら、ただイメージでとらえて決める。

今日は海に行きたいけん、海。
風が気持ちいから、風。

その方が、この町のスタイルにあっているのかもしれない。

期間限定のはずだったお店は、
今、気づけば再オープンをして1年が経つ。

「ご飯を食べたあとのひとや
疲れてそうだなと思うひとにはあっさりめに入れたり。
岡本さんには、浅煎りでもちょっと濃いめに入れてるんですよ」

お客さんとの話の中でコーヒーの淹れ方を
少しずつ変えていく。

いつの間に、味の好みを知られていたんだろう。

「こうでなければいけない」なんてない。
なんにも知らなくたっていい。

ふわっと、コーヒーを楽しみに行こう。

カウンターには彼が焙煎したコーヒー豆が並ぶ。
現在は、海・風・花の3種類。
ロゴマークは斉藤さんの「海と太陽」という
イメージをおさななじみがデザイン。

-「うみのこと編」に続く―

「sunlife coffee」Instagram
https://instagram.com/sunlife_coffee/

斉藤成希さん(24歳)
黒潮町入野生まれ。小中高と地元の学校に通い、大阪の専門学校へ4年間通う。その後帰郷し、半年後に「sunlife coffee」をオープン。コーヒー屋の経営をしながら理学療法士の国家試験合格をめざし勉強中。

text:Lisa Okamoto

-うみべのごはん