うみべのごはん

ありのまま、自然のまま(後編)

―前編はこちらから―

サトウキビの収穫は
本格的な寒さがやってくる前。
糖度が上がる11月中旬から始まる。

収穫作業の折り返し地点まできた12月上旬、
3mほどに伸びたサトウキビの畑を訪れると
特徴的な刃がついた鎌を手に
手際よく収穫をする2人。

空の低い位置から降り注ぐ冬の光が
葉の間に差し込み、風でざわざわと揺れる。
一瞬、スローな時間が流れた気がした。

光が差し込み、風に揺れるサトウキビ
背の高いサトウキビ。
ぐっと背と手を伸ばし収穫を行う。

「収穫をして、これを釜で炊いていく。
釜炊きは、今までは夜中から朝までだったけど
今年からはそれを変えて。
朝5時頃から始めて
昼の2時、3時に終わるように」

ここでは「入野砂糖研究会」に所属する
25軒ほどの農家が
それぞれ自分で育てたサトウキビを
自分の砂糖として各々で商品にするシステム。

だから、「入野砂糖」でも
農家によって、味が違う。

ただ、絞ったサトウキビの汁を
釜で炊く作業には熟練の技が必要で、
誰でもできる仕事ではない。

「前はもうちょっといたんだけどね、
今は僕ともう1人だけ。
だんだん高齢化が進んでいる。
そうなるとさすがに夜中の作業はしんどいから
今年から変えたんだよね」

人に炊いてもらっていた1年目。
それから自分の分を炊き出し、
少しずつ他の人のものも
炊かせてもらえるようになり…

「何年目だったかなあ。
「来年はやれ」って言ってもらえて。
でも、まだまだだよね」

棒を上から下へ振り、黒砂糖のでき具合を確認する。
この時「風船」と言われる
膜を張った丸い状態になったものを見て、仕上がりを判断。

今でも修行中の憲二さんの横で、
修行を始めたばかり、
一生懸命に釜を混ぜる男の子。

小学6年生の飛海(とうな)くんは、
憲二さん・頼子さんの息子。

憲二さんの隣で"2番釜"の釜炊きをする飛海くん

「3歳くらいからかなあ。
一緒に畑を手伝ったり、
ちょこちょこしてたよね。
熊手で草をかいたり、カス撒いたり。

釜炊きもね、数年前からやってるけど、
今年から本格的に。
大人と同じお給料も出して」

休憩する飛海くんに
お父さんと一緒に釜で炊いた
できたての黒砂糖が運ばれてくる。

とびきりの笑顔とGoodサインを出して、
ひと言、「甘い」。

最後の3番釜からあげられる黒砂糖。
これを型に流し込む。
頼子さんとじゅんこさんという女性のペアで
炊かれた砂糖を型に入れていく。
「1年に1回、ここで頼ちゃんとおしゃべりできるのが嬉しい」
と、じゅんこさん。

釜炊きの作業は繊細で、
時間とともに糖度も変化していく。

大変な作業だけれど、
時々大人同士が冗談を言い合い
憲二さんと飛海くんが釜を見ながら話し、
職人が働く場所ながらも
柔らかな雰囲気に包まれる製糖場。

何やら釜炊きの話をしている様子。
「憲ちゃん」と父親を呼ぶ飛海くんが愛らしい。
釜を混ぜるだけではなく火加減も重要。
3つある釜のうち、2つはバーナー、1つは松の薪。
この日憲二さんと一緒に作業していたのは西地達義さん。

「美味しい砂糖ねえ。何かな。

うーん、
元気なサトウキビを作るのが一番だよね。
原料が良かったら、いい感じに仕上がる。
でも、いっぱいありすぎて、わかんないね」

美味しい黒砂糖にするには何が大事?
そんな疑問に答えてくれる憲二さん。
でも、はっきりとした答えではない。

取材中、
同じように時折感じた「決まってなさ」。

この地に住処を決めたのも、
黒砂糖作りにはまったのも、
釜炊きの極意も、
「理由や意味を求めすぎ?」なんて
用意した質問を投げかけながら、思い始める。

自然に感じて、自然にそこにある。

跳ねて釜の外に飛び散った黒砂糖。
おいしそう。

「色がまず黄金色でね、
味もあっさりだし、
料理に使ってもコクと、程良い感じ。
黒糖だとね、ちょっと濃すぎたり
料理にも使えなかったり
っていうこともあるけど、
入野砂糖は素材の味を引き出す。

って、料理人はよく言うね(笑)」

どこが好き、何が好き、
そんな説明をしなくたって、
好きなものは、好き。

自然の生き方、ありのままが、
田波夫妻と入野砂糖の中にある。

上樫森」(黒潮町入野2151)
サトウキビを栽培し、製糖した入野砂糖や入野砂糖を使用した商品を販売する田波憲二さん・頼子さん夫妻。サトウキビ作りを始めた場所の小字名からとって「上樫森」と命名。飲食店等へ入野砂糖を販売するほか、1月中旬頃から道の駅で「BOKA NUTS」や「ボカシロップ」などの商品を販売。イベント等へも出店。現在小学6年生の息子さんも製糖作業の修行中。

Text Lisa Okamoto

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