うみべのあそび

砂浜をゆく大人たち(砂浜美術館・後編)

【Tシャツアート展のこと】

*「砂浜美術館のこと編」はこちらから*

「ここではこうなるんや」

Tシャツアート展にやってくる大人たち。
自分のTシャツを探すため
砂浜をあちらこちらへと歩く。

「大の大人が自分のTシャツを探すのに
砂浜をうろうろする。
それだけで面白い。

しかも、うろうろして、
自分のTシャツを見つけたら
嬉しがってくれる。
子どもみたいに。

その気持ちを自然に作れるのは、
Tシャツアート展の良さやなと。

砂浜美術館では、
大人だってこうなるんやと」

Tシャツを見るために来場者は砂浜を右へ左へ歩いていく
(昨年のTシャツアート展の様子)

そう話すのは、
昨年からTシャツアート展の担当をする
同団体・観光部の塩崎草太さん(37)。

Tシャツアート展の担当をする塩崎さん

前編でもお話したように、
砂浜美術館が考える「Tシャツアート展」は
「ありのままの砂浜を美術館にする」
という考えをわかりやすく伝えるための手段。

それは、砂浜美術館という
団体や塩崎さんたちが
過去から考え続け、伝え続けてきたもの。

でも、Tシャツアート展に来る
お客さんたちの中には
単純に「イベント」として
来てくれる人もいる。
それはもちろん悪いことではないけれど、
担当として、
やはりこちら側の思いを届けたい、
どうやって「砂浜美術館」という
考え方を理解してもらおう、
そんな思いが
担当になりたての頃の塩崎さんにはあった。

でも、ある人に
「来る人によって、見え方や考え方は違うし、
伝えることばっかりを考えなくても
いいんじゃない」 そう言われた。

「砂浜美術館を楽しむという意味では、
自分が考えていることも
お客さんの思いも
もしかしたら一緒なのかもしれない」

そう思えた時、
こちらの思いばかりを
主張しなくてもよいのかもしれないと思えた。

塩崎さん自身、最初は砂美のことを
「なんなんそれ」と思っていたらしい。

2016年。
兵庫県出身の塩崎さんにとって
初めてのTシャツアート展。

大雨が降った日があって、人も来ないし、
言ってしまえば
大勢の人にとっては「運の悪い日」。

そんな時、
一緒に作業をしていた先輩スタッフが
雨に濡れた砂で
小さなクジラの砂像を作り出した。
しかも、楽しそうに。

「なるほどな」
塩崎さんはそう思った。

ものの見方を変えてみるとか、
Tシャツアート展や
砂浜美術館のおもしろさってこれかなと。
そんな風にして生活や人生にも
おもしろさや深みを見つけていける。

何もないと言われる砂浜だし、
なんなら砂浜しかない町だけど、
大切なものは意外と身近にあって。

それはここだけに限った話ではなくて、
世界中どこでもの話。

「Tシャツアート展は
そう思うきっかけになればうれしい。
それで自分の町に帰った時、
その土地の豊かさも
再認識できるんじゃないかなと」

砂浜をうろうろと歩けば、
イベントとして楽しみに来た人だって
きっと何かを発見して帰ってくれているはず。

「海って気持ちいいな」
「きれいな景色だね」
それだけでも、
大人になってからは忘れていた
新鮮な気持ちとの出会いなんじゃないかな。

「砂美に出会えてよかった」
塩崎さんがそう話すように、
Tシャツアート展を通じて何かに出会って
そうして帰ってくれる人が
また増えていけばうれしい。

4月19日。Tシャツを括るための杭の位置を決める
メジャーで測りながら位置を微調整
Tシャツアート展5日前の準備作業
展示順を確認しながらTシャツを並べていく

「第34回Tシャツアート展」
会期:5月1日~5月5日 9:00~17:00
会場:砂浜美術館(入野の浜)
協力金:300円

会期中は、着なくなった白いコットン製のTシャツを回収する企画も。
回収されたTシャツは、サーキュラーコットンペーパーという紙となり循環される仕組み。今年からNPO砂浜美術館が新たに始める環境や未来のことを考えた取組。

イベント等詳細は同館HPから
http://www.sunabi.com/works-art/34th-t-shirt-art-info/

塩崎 草太さん(37)
2016年4月に兵庫県神戸市から家族とともに黒潮町へ移住。地域おこし協力隊として3年間、町のスポーツ振興に携わった後、2019年にNPO砂浜美術館の職員となる。

text Lisa Okamoto

-うみべのあそび