紙芝居は、1から自分たちで、制作する。
黒潮町を含め、高知県は紙芝居の文化や、それぞれの地域に残る昔話があるという。
「各地に伝わる話はちゃんと語り継がれてきて、それが、地区の財産として残ってきているよね。でも、それはどうしてって話よね。それは、その時の現代を書き残している人がいて、それが何年かの月日を経て私たちの手元で見せていただけているってこと。じゃあ私たちよりも後に生まれた世代の人たちは何を読むのかしら」
自分たちは先人が残してくれた文献や資料をもとに紙芝居を作ることができる。
では、後人には何を残したらいいのかということがおはなし玉手箱のテーマになってきた。
伝説や物語を伝えながらも今を描き、今を語り継ぐための手段として、後人に残せるような紙芝居を作ろうと思っている。
入野松原がまだ無かった頃から、入野松原ができ、そこで花火大会などのイベントが開催されるようになった黒潮町の変化や、平成25年に開催された「世界津波の日高校生サミット」が黒潮町で行われて、世界の高校生が小さな田舎町を訪れたという出来事までを描いた「入野松原物語」という作品も作った。また、拳ノ川小学校の楮を育てて、紙漉きをして、卒業証書を製作する「ぼくたちの卒業証書」は、後人に残すメッセージを込めた作品となっている。
紙芝居の文章は、調べてきた資料を元に、「おはなし玉手箱」が作成をしている。
絵はメンバーの中で得意な方が描いたり、学生に依頼したりとたくさんの人が携わって、ひとつの作品が出来上がる。
今は23作品目の紙芝居を制作している。
始めて作成された紙芝居は「小袖貝物語」。
「大方地域の中に残っている『小袖貝の物語』というのがずっと昔から地域に伝わっていて、その作品は完成されたものがなくて、そのフルバージョンを作ろうということで、いろいろ調べたり、資料探したりして作って、それを紙芝居にしたっていうのが一番最初ですね」
当時入野松原でジャンベ(※)をたたく祭りがあり、その祭りの会場で、流木で作られたドームの中にライトアップが施された幻想的な空間で、第一作目「小袖貝物語」を披露した。
子どもたちに小袖貝がどんなものかっていうのを実際に見せたり、病院や各施設で上演会もしたりして、たくさんの方に聞いていただいた。
おはなし玉手箱ではこれまで、通算160回の上演をしている。
その中でも、高齢者の方は「その話、知っている」という人がたくさんいて、認知症になっている人も、その時は記憶が戻り、とても楽しんでもらった。
「すごくいい雰囲気でやらせてもらったのに味をしめて、それから今まで、長い間やりよう」
聞いてくれるたくさんの方に喜んでもらえることが、今続けていけていることに繋がっているという。
「子どもたちには絵本が大事だと思うのね。自分にはそういう環境がなかったけど、子どもたちが本に触れたいと思った時に、その環境を提供できるというのは大人の仕事だろうなって思う」
まちづくりが大好きだという坂本さん。
図書館の設立や、絵本ルームの開設を、自分ができるまちづくりのひとつとして、活動をしていた。
「誰かがどこかでがんばるから『もの』っていうのが出来上がって、次の世代の人たちがあたりまえのように使っていくことができる。でもそれはあたりまえにあるのではなくて、過去にいろいろな努力があって、それがあたりまえになっていく」
例に砂浜美術館があがる。
できた当初は、砂浜を美術館と見立てることに否定的な意見もあったが、今はその考え方があたりまえになっている。
価値というのは「もの」だけにあるのではなく、考え方にあったり、物の見方にあったりする。
「価値があるものを作り上げていくっていうのは、まちづくりの基本だと思うので、それが私の場合はたまたま図書館であったり、地域であったり、家族も大事やし。何に価値を感じるのかは人それぞれ違っていると思うけどね」
おはなし玉手箱のメンバーはこれまでたくさんの方の協力に支えられてきた。
紙芝居の絵を描いてくれる人、イベント時に手伝いをしてくれる人、応援にきてくれる人。
その時々のメンバー数は少なくても、これまで関わってくれた人はたくさんいる。
「メンバーはいろいろと変わってきたんだけどね。でも、みんなの協力があって、一緒に助けてくれる人がおって、今まで続けてこれたんかなって」
これまでのメンバーみんなで今の「おはなし玉手箱」を作って、それぞれがいろんな想いと一緒に、今を作る。
「この活動に過去も今ものせて、お話も想いもつまった玉手箱になるように続けていけたらいいな」と坂本さんは話してくれた。
※ジャンベとは打楽器のひとつ。片面太鼓。
おはなし玉手箱
黒潮町で紙芝居の読み聞かせ活動を行うグループ。黒潮町に伝わる昔話や、偉人の物語を大型紙芝居にて制作。「むくげの花の少女」「観音さんの和尚さんの話」などこれまで22作品を完成させ、現在23作品を制作中。イベントや学校、施設などで読み聞かせを行っている。
text Aoi Hashimoto