うみべのあそび

暮らしにある浜(後編)

「今年で7年目やないかな」
浜清掃と同時に区長としても今年で7年目を迎えた。
年度最初の会合で次の区長を誰にしようかという話し合いの際に、近所に住む漁師の方達からの推薦で区長になった。
さらに2017年3月、浜町地区に津波避難タワーが建設され、「防災かかりがま士の会」が発足された。

佐賀地区に建設された日本最大級の津波避難タワー
高さ25m

「かかりがましい」とは佐賀地域にある方言で、「必要以上に世話焼き」という意味がある。
防災には人と「かかりがましい」くらいの繋がりが必要とのことからできた会。
発足した当時は浜町地区の有志4名で構成されていたが、今は3名で活動を行っている。
そんな「防災かかりがま士の会」でも会長を務める河内さん。
日本最大級の津波避難タワーを見たいと、全国から見学者が訪れるようになり、当初は役場の職員が津波避難タワーの案内をしていたが、人手不足のため対応が難しくなる。
そこで相談を受け、受付は黒潮町観光ネットワークが対応し、津波避難タワーの案内や防災プログラムの講演を、「防災かかりがま士の会」が行うこととなった。

津波避難タワーの案内やプログラムの講演によって集まった資金は、地区で必要な備蓄品などを買うために使われている。
「えい思うことはたいがいやりよるつもりやけどね。ただ、やっぱりひとりじゃわからんし、ほんで役員が集まったときに「おーい、なんか欲しいもんないかー」いうて、聞いて相談しながら買いよる」
地区をよくするために考え、地区を巻き込んで考える。

タワーの見学に来たお客さんから、防災訓練の参加について、「どうやって人を集めたらいいですか」との質問がくる。
浜町の参加率は高い。防災訓練をするとなると、住民が300人いたとしたら150人は参加をしてくれるという。

「『それ、簡単』、言うて。『嫁さんに協力してもろうたらえい。女性たちが呼びかけしてくれれば、男性達は大体動くけん』、言うて。『女性部のしゃきしゃきの人を役員にしてその人らに動いてもろうたら防災訓練やっても絶対人が動くきそれがいちばん』、言うて」
迷わず、笑いながら言う。
冗談や嘘ではなく本当に集まるからこそ説得力がある。
これも人との繋がりがあるからこそ言えることなのかもしれない。

そんなたくさんの活動をしている河内さん。
清掃は、「区長だから」「会長だから」という理由でやっているわけじゃない。
散歩の延長線上にある清掃。

塩屋の浜を歩く河内さん

「僕らも根詰めて行きよるわけでもなしに、ただ1日1回は朝に限らず覗きに行くから」
浜を覗いて汚れたなと感じたら清掃のことを考える。
小潮の場合はごみがあまり上に上がってこないため、運ぶのに大変になるが、大潮だとごみが上に上がってくる。
「そうしたら掃除するに楽な。それ比べといて、やるときにはやる」
そんな風に潮の状態もみながら清掃を行う。

毎朝清掃をしていたら近所の人にお礼を言われたりもする。
子どもから「ありがとう」と大きな声で言ってくれたこともあり、そこから繋がりができたこともあるという。
「普段歩きよる人はみんな顔見知りばっかりやしね」

これから夏休みに入れば水遊びに来るお客さんが多くなる。
塩屋の浜がきれいなことで結構穴場になっているとのこと。
「ちっとでもきれいな方が、来た人がいいやろうくらいで」
そんなに深くは考えない。
誰かのためにする清掃じゃなくて、これがいつもの習慣。

「まあたのしくやらにゃーね、その都度。ぐじぐじして生きてたら損や。しんどい中でも楽しいこと探してやったらなんとか持ちこたえられる」
そう笑って最後を締めくくる河内さん。

どんな質問でも笑って応えてくれる河内さん

20~30分ほど清掃したら市場のかごをひっくり返してそこに座る。

「自分は魚釣りせんがよ。上で待つがたいそいに。それやったら自分が泳いで潜って獲るスタイル」
泳ぎながら魚を捕まえるのが好きだと楽しそうに語る河内さん。
かごに座り、海を眺めながら「今日はどこ泳ぎに行こうか」なんて考えて。
のんびり。自分のペースで。
朝日とともに塩屋の浜の清掃が、河内さんの1日の始まりを告げる。

朝、海を眺める
のんびりできて気持ちがいい

河内香さん
黒潮町出身・在住。河内酒屋を営みながら浜町地区の区長、「防災かかりがま士の会」の会長を務める。同じ地区に住む門脇武義さんとともに毎朝「塩屋の浜」の清掃を行っている。

Text Aoi Hashimoto

-うみべのあそび