ニューオーリンズから帰国後、いよいよ2009年11月に「海辺の日曜市」が立ち上がり、2月までのお試し期間を経て、それから今まで15年間、毎月1回の開催を継続してきた。
始まった当初を振り返れば、いろんな思い出がある。当時から発信し続けてきた日曜市のブログを取材に備え読み返してきてくれた福岡さんからは、さまざまな過去の思い出が語られる。
「本当の最初は海のバザールの駐車場でやったがよね。でも、あまりに海に近いから風がすごくて、その後はネストさんの駐車場でやらせてもらったり。それも大雨の日があって、出店者さんたちはとりあえず集まってくれたけど、『さすがにできんね』ってなって出店者さん同士が物々交換をして帰ったり。それからやね、今の体育館の横に移ったのは。雨が降っても屋根があるので、なんとかできます」(福岡さん)
「一番最初の頃から今も出店してくれている人たちもいますよ。トコトコ屋さんやkiroroanさん、ともえどうさん、PECOちゃん、日常屋さん・・・。今は北海道に移り住んだ人もいたりして」(福岡さん)
「スタッフはその都度入れ替わったりもしますけど、役場の職員さんに声をかけたり、協力隊の人たちに手伝ってもろうたり。あみちゃんもね、こっちに越してきてわりとすぐに手伝ってくれるようになったよね」(福岡さん)
現在5名ほどのスタッフがいるというその中の一人、宮川真由子さん(旧姓 網(あみ)真由子さん)(41)は、2016年に大阪府から黒潮町へ協力隊として移住し、移住したその翌年から日曜市のスタッフとして今も関わっている。
「あみちゃんは、移住してくる前から日曜市のこと知っちょったもんね?」(福岡さん)
「知っていました」(宮川さん)
「なせ(何故)知っちょったがよ」(畦地さん)
「あの、調べるから、やっぱり。移住前に黒潮町のこと。でもね、その当時はあんまり情報が出てこなくて、ほんなら日曜市のブログだけはネットで出てきたんかな。移住する半年前くらいやったと思う」(宮川さん)
日曜市は、移住者が黒潮町へ移住してきた初期の段階で行くことがなぜか多い場所になっていて、宮川さんもその一人だった。移住前から知っていた日曜市へいざ遊びに行ってみると、日曜市の雰囲気が良かったのはもちろん、あの時読んでいたブログの書き手がすぐそこにいて、なんだか「距離が近い」マーケットだと感じたそう。
「私はその時、協力隊として移住相談員の仕事をしてたんやけど、移住したい人って、自分で何かをしたいっていう人も半分くらいいてる。『農業がしたい』とか『お菓子を作りたい』とか。そういう人には真っ先に日曜市をおすすめしていたね。黒潮町の人たちってどんな人なのかなとか、この地域はどういう地域なのかなとかっていうのがとってもわかると思いますって。出店も『初めて出すんだったら日曜市がありますよ』みたいな。だから、夢を後押しする場やなと思ったかなぁ」(宮川さん)
「本当、出店者さんも、スタッフの人たちも、自分のお店を開業したりして日曜市からは卒業していく人も結構いるんですよ。自分のお店を始めたら、出店はなかなか難しくなってくるからね。でも、嬉しいよね」(福岡さん)
15年続けていると、日曜市の事情にも、世の中の事情にも変化がある。だからこそ、事務局として悩むこともある。
「最近、結構マーケットも増えてきてますよね。いろんなマーケットと日曜市、どんなところが違いますか?」
そんなインタビュアーの投げかけに、「うーん」と言う福岡さん。
「最近、そこも考えているんですけど、『地域に賑わいを生む』っていう日曜市の当初からのコンセプトがあるんですけど、マーケットが増えてきたら、日曜市がなくてもいろんなところで賑わいが生まれているしなぁって。だから、日曜市はこれからどんな部分で個性を出していったらいいのかなっていうこともこの頃考えています」
黒潮町におけるマーケット開催の先駆けとして、長年続けてきたからこそ感じることがあるはず。でも、日曜市らしさはやっぱりちゃんとある。
「月に一回っていうペースが、『イベント』というよりももうちょっと『日常』に近いというか。年に一回ってなると、やっぱり特別感があるような気がするけど、毎月開催となると、日常の延長のような感じで。だから出店者さんももしかしたら休みやすいかもしれないですよね。『今月はあっちのイベントと重なっちゃって』ということも結構あるけど、そちらに行って賑やかにしてもらったらいいなと思うし、体調が悪かったりとかもあると思うし。でも、毎月あるから、また来れる時に来てくれたらいいなと」(福岡さん)
畦地さんがニューオーリンズで見た、「小さなマーケットでも人々がやり取りする場が、いざという時にも役に立つ」ということ。
普段から日常のように日曜市で顔を合わせ、「今日は何を買って帰ろうかな」「今日は誰々さんのお店が来てるかな」「あれ、今日はお休みだけどどうしたんだろう」、そんな日々の暮らしの中の一部のような場として存在することが、この町の「賑やかし」になるのかもしれないし、日々のコミュニケーションにつながっているのかもしれない。
一日限りのイベントで盛り上がる時間とはまた違う、黒潮町らしいのびのびとした日常使いの賑やかさ。15周年を迎えた今、イベントとして大きく成長していこうとするわけではなく、これからも、人と人が繋がり続けていけるように、海辺の日曜市があってくれる気がする。
幡多・マーケット「海辺の日曜市」
毎月第2日曜日に土佐西南大規模公園で開催されるマーケット。まちづくりマーケットプロジェクト主催。飲食や雑貨など、出店者の手作りの品々が販売され、出店者と来場者がコミュニケーションを楽しみながら穏やかな一日を過ごすことができる。2009年11月に始まり、2024年の今年、15周年を無事迎えた。
text Lisa Okamoto