うみべのあそび

暮らしにある浜(前編)

佐賀地区の浜町にあるきれいな砂浜「塩屋の浜」。
午前5時30分。朝から浜を清掃する2人の姿。
何時からいるのかと尋ねれば、
「今日は4時半くらいかな」
すでに一仕事を終え、待ってくれていたのは河内香さん(73)。

塩屋の浜を清掃している河内香さん

清掃をするようになったのは17年間清掃を続ける門脇武義さん(79)の声かけから始まる。

「手伝ってくれ」

浜には大きい流木が流れついていた。
大きいものが流れて来た時には1人で動かせないとのことで手伝ってほしいと、門脇さんから散歩中の河内さんに声がかかる。
毎朝散歩をしていた河内さん。「それなら一緒に清掃をしよう」と思ったのが始まりだった。

塩屋の浜と同じ浜町地区出身で、中学校卒業後は漁師になりたくて室戸の水産高校へと進学をする。
しかし家業を継ぐため、卒業後は家で酒屋と旅館とタクシーをすることとなった。

「家おったち退屈なき、嫌ー。おら船行くぞー」

22歳のとき、ずっとやりたかったカツオ船に乗ることにした。

「こんな面白い仕事ない。来年も行こう」

家で働いていた時にはお客さんを相手にすることが多く、人に気を遣うことが多かった。
その反面、漁船は人に気を遣うことが少なく、河内さんにとっては続けたい仕事だった。
しかし、父親が倒れてしまい、その時からカツオ船には乗れず、1年で家業に戻ることになる。

30歳になったときに旅館はやめて新聞屋をはじめることにした。
新聞屋は朝が早い。毎日午前3時に起きて配達をする。
その時から朝早く起きることが習慣となり、今も朝は早く起きれているという。

そのあとタクシー業を30年間行い、区切りがいいため54歳の頃やめた。
新聞屋も30年経ち、定年も近づいたことで65歳でやめることにした。
そこからは酒屋一本で今も経営をしている。

そんな河内さんの一日は、7年前より朝の清掃から始まる。
「だいたい夜が明ける前。家おって空が明るくなったら『ほいたら行こうかー』いうて。ほんでだんだんこの時期になったら早くなってくるがよね」
夏場は夜が明けるのが早いため、浜に向かう時間も早くなる。
冬場は夜が明けるのは遅いため、清掃が始まるのは6時ごろ。

「今日の日の出が5時1分」
取材にうかがったその日に撮った日の出を見せてくれる。
毎日ではないが、朝行って日が出る瞬間や雲の状態を見て、今日はきれいかなと思うときにはシャッターをきる。

河内さんの様子を取材しようと同行したこの日、日の出がとても綺麗で、早起きをしただけでも得をした気分になる。

6月7日(金)朝5:15ごろ撮影した日の出

「強制されてやりよう事じゃないからいつやめてもいいんやし、それが気楽やね。今日はしんどいけん休むとか、雨が降るけん休もうとか。自由や。それがあるき長い期間できるんやろうね」
朝の浜清掃をはじめて今年で7年目になる。
気楽に自分のペースですることで、ゆるく長くここまで続けていられるという。

1日長くても2時間ほどの清掃をする。
「結構えらいで(※)。市場のかごにぬれたりしたごみを入れて運ぶのは」
ごみは一度海岸周辺でかき集める。
場所を少しずつ移しながら次のところに行って、またかき集めてを繰り返す。
そのごみをかごに入れて運び、1カ所に集める。
ごみが多い時であれば、1カ所だけでかご10箱分のごみが集まるとのこと。
その分運ぶ回数も多くなる。
それだけでも大変だが、それに加えてごみがぬれていると重くて運ぶだけでも大変になる。

「ほんでなるべく、1回波打ち際から5~6m上に上げてあつめておいて、今度はそこで乾燥さすがよ、そしたらその後カゴにのせて引っ張っても軽いやろ。ぬれたままより。2~3日干したら結構かるうなるきね。そんな感じで集めてやりよる」
少し工夫も加えながら、自分がやりやすいように考えて清掃をする。

「冬場11月ごろから4月くらいまでは風が北風・西風ながよ。そうなると風で沖に流されるき、ごみは来んが。それで4月ごろから10月いっぱい、今度は台風が来たり、風が反対、南風が多くなるからごみが来だすがよ」
日によってごみの量は変わり、季節や風によっても変化があることを教えてくれる。
ごみの種類はやっぱり木竹が多く、木竹を集めてまとめたごみが、市場のかご10箱分あるとすれば、ペットボトルやプラスチックは10分の1の量。
木竹、プラスチックなどは一緒に処分してしまうが、流れ着いた市場のかごは再利用する。
ごみを運ぶときに使っていたかごは流れ着いた市場のかごを再利用している。
他にも分類する際に、入れておくかごとしても再利用している。

流れ着いた市場のかご
浜近くに置いて分類して入れる

浜にはごみばかりではない。
清掃された浜に残される貝殻達。
自分のお気に入りの貝殻を見つけたくなるほど浜に散らばっている。
河内さんの家には、昔家族と一緒に集めた貝殻が、ビンいっぱいに詰められて飾られている。

拾ってきた貝殻を全て入れて飾っている

まだこれはほんの少しの貝殻で、まだいっぱいあることを教えてくれる。
話を聞いていると、貝殻も思い出もいっぱい詰まっていることが伝わってくる。

※幡多弁で『大変』などの意

河内香さん
黒潮町出身・在住。河内酒屋を営みながら浜町地区の区長・「防災かかりがま士の会」の会長を務める。同じ地区に住む門脇武義さんとともに毎朝「塩屋の浜」の清掃を行っている。

Text Aoi Hashimoto

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