今から23年前、2001年7月に結成され、現在5人のメンバーが中心となって活動する「おはなし玉手箱」。町内を中心に紙芝居の制作・上演を行っている。たくさんの話をテンポ良く話してくれるのは、代表を務める坂本あやさん(66)。
黒潮町で生まれ、父親の仕事の関係で大阪や埼玉で幼少期を過ごし、中学2年生の時に一度黒潮町へ戻る。高校生活は黒潮町で過ごすもその後また、就職をして他県で暮らした。
再び黒潮町へもどってきたのは、26歳の春。黒潮町で結婚し、子育てをしながら働いていた。
坂本さんの子どもの頃は、人気アニメのテレビ放送が始まった時期で文学とは少し離れた生活を送っていた。「私、新聞を読むのが苦手で」活字を読むことをあまり好まない坂本さんだが、今はおはなし玉手箱のメンバーとして年に1 作品の紙芝居を制作している。
今から24年前、黒潮町に大方あかつき館(以下、「あかつき館」)が建設された。「今は『おはなし玉手箱』なんだけど、それ以前に『本の虫』というグループがあって、そのメンバーと一緒に図書館建設運動をしよったがですよ」あかつき館が建設される前までは黒潮町に町立の図書館がなく、当時の図書館というと学校にある図書室くらいで、公共的な図書館を利用するという文化がなかった。その中で、地元の要望と「本の虫」の活動の成果として今のあかつき館が生まれた。
でも、建物が建っただけでは、ただ建物を建てただけで終わってしまう。あかつき館を利用してくれる仲間を作ることを目的に、絵本作家や小説作家を招いた講演会をして要望活動などをしていたのが、「本の虫」だった。それからあかつき館が建設され、今の「おはなし玉手箱」が結成された。
「少しでも利用者が増えて、子どもたちが絵本を読んだりとか、お父さんやお母さんと一 緒に出かけて、ファミリーで楽しんでいただけたりするような場所になったらいいなっていう思いがあって、そのために『おはなし玉手箱』っていうグループが生まれて」
メンバーはこれまでに入れ替わりがあったが、あかつき館が開館して2年目から坂本さんと一緒に活動を続ける文学者の先生がいる。「とても勉強させてもらった」今は文学者が減っているが、当時たくさんいた文学者の中の一人であった宮川昭男先生が 文章の書き方など、作品を作る知識を坂本さんに教えてくれた。
「自分たちの日常生活からちょっと離れた感じで、月に一回あるおはなし玉手箱の会が、自分の中でとっても大事なものになっていった」月に一回行われる定例会では、新たに地域のことを知れたり、資料には書かれていないこ とを探しに行ったり、自分たちの町の歴史を知る貴重な時間となっている。
「活動を続けていく中で、自分のライフワークになってきた部分もあるし、それで自分も 勉強させてもらったり、素敵な人との付き合いをさせてもらったり、そういうありがたい 関係がずっと保てているので、続けられる限りは続けたいなと思って」最初は「あかつき館を応援できたらいいな」という気持ちで取り組んできた活動も、23年 間の月日を経て、坂本さんのやりがいへと繋がった。
「ついにね、こうして「うみべのくらし」の取材も受けられるようになってね。23年かか ったけど。ふふふ」 素敵な笑顔で取材を受けてくれる坂本さんにはここまで継続してきた想いがつまっている。 新聞にも取り上げてもらったり、賞もいくつか受賞したりと23年間で培ってきたものが今に繋がって、広がる。もっと多くの人にうみべの町のこれまでを、今を、継承するために活動を続けている。
おはなし玉手箱
黒潮町で紙芝居の読み聞かせ活動を行うグループ。黒潮町に伝わる昔話や、偉人の物語を大型紙芝居にて制作。「むくげの花の少女」「観音さんの和尚さんの話」などこれまで22作 品を完成させ、現在23作品目を制作中。イベントや学校、施設などで読み聞かせを行っている。
text Aoi Hashimoto