うみべのあそび

変わらないうみべの町を咲き続ける花と一緒に(前編)

「マプロックっていう存在自体を知らなかったですよね」
彼女からの問いかけに対して、肯定を表せば
「私も知らなかった」
笑ってそう話してくれるのは毛利萌乃花さん(30)。
そんな会話を横で優しく笑いながら聞く代表の松田達哉さん(51)。

(有)サザンウェーブ/マプロック
毛利萌乃花さん(左)・代表:松田達哉さん(右)

花を加工して、保存された状態の花(プリザーブドフラワー)を販売したり、ハーバリウム※作り体験を行ったりしているマプロックの始まりは松田さんのお兄さんからだった。
約10年前、お兄さんが他の道に進むこととなり、マプロックとの兼業ができなくなったため、その仕事を他の人に引き継いでいった。
そんな中、マプロックの今後について悩んでいたころだった。

「これを無くしてしまうのもなんかもったいない」(松田さん)
マプロックを松田さんが引き継ぐこととなる。

当初、システムを開発するためにつくった有限会社サザンウェーブを経営していた松田さんはマプロックと合わせて経営をスタートし、マプロックで加工して、サザンウェーブで商品を販売するというひとつの仕事ができた。

黒潮町出身の松田さんは、高校卒業後は理容美容について学ぶため県外の専門学校へと進学した。
専門学校卒業後は県外で就職をし、自分の店を出すために黒潮町へと戻ってくる。
理美容師として働いていたところ、有限会社サザンウェーブとお兄さんから引き継いだマプロックの経営を始めることとなった。

その頃、マプロックに興味があるという人が訪ねてくる。
それが毛利さんだった。

2018年のことだった。
「まずはマプロックの話、花の話を聞かせてもらって、『やりたい』ってなったので来ました。当時は福岡で働いていましたが、松田さんのお兄さんの話を聞いて1年経つか経たんかくらいで当時の職場を辞めてきました。ほぼ押しかける形で(笑)。『入れてください』って」(毛利さん)

黒潮町出身で中学校を卒業した後、高知工業高等専門学校へと進学をした。
卒業後は福岡で就職し、工場ではエンジニアとして、機械のオペレーションをしていた毛利さん。
働いていた際に、歯車の一部として働いていた感覚があり、それに虚無感を感じて、高知に帰りたいと思い始め、長期休みで一度黒潮町に帰ることにした。
その際、毛利さんは母親に「高知でなにかしたい」ということを相談し、母親が松田さんのお兄さんと知り合いだった関係で、「じゃあ話聞いてみる?」とのことで、マプロックへとたどり着いた。

「高知で、できれば町の役に立つことをしたいんですけど」(毛利さん)
松田さんのお兄さんに相談したところ、一輪のダリアが出てきて今のマプロックの話を聞かせてくれた。
そこから興味を持ち、その足で松田さんのいる美容室へ行き、さらに花の話を聞かせてもらい、高知の花を使って無駄のない循環をする仕組みになっていることに魅かれた。

今も松田さんは理美容師として働きながら、毛利さんと2人で有限会社サザンウェーブ/マプロックを営業している。

始めた頃までは花には関係のない仕事をしていたため、花の知識がなかった2人。
花の名前もあまり知らない中マプロックに携わり、一から知識をつけていった。

バイカオウレンの葉っぱ
1から説明してくれる

花を仕入れるうえでこだわりがある。
「花を買って仕入れてやっているわけではなくて、『ロスフラワー』って言われるものなんですけど、ハネ品とか捨てられる花を安く仕入れさせていただいて、それを商品に変えています」(毛利さん)
花にも出荷基準があり、花そのものには問題がなくても、背丈が足りない、花のサイズが小さいなどのものは、出荷基準に満たないため基本的に捨てられるか、安く売られるかだという。
農家のほとんどは、花屋に花が届いた際にきれいに咲く状態にするために、3部咲きくらいの時に花を収穫する。
そのため出荷基準に満たなかった花は残り、ハウスで花を咲かせる。
その花を農家と相談し、直接摘ませてもらっている。
「農家さんも、『もう(出荷するのには)遅くなったけん、全部取っていってかまんで』って(笑)」(毛利さん)
商品にならない花は結果的に処分が必要となる。
その作業をマプロックが代わりに少しでもやってくれることは、農家にとっても助かるとのこと。

基本的には近くの農家から花を安く仕入れ、遠くても県内の花を直接いただくようにしている。
「取ってすぐ処理するのが大事」(毛利さん)
プリザーブドフラワーは、加工することでその時の花の状態で成長を止める。
咲ききった花は切ったときから、少しずつ元気がなくなり枯れてしまうため、一番きれいに咲いたときにプリザーブドフラワーにしてしまえば、咲いたままの状態を長く楽しむことが可能となる。
そのため、なるべく近い農家に花をいただけないかお願いをしているとのこと。

プリザーブドフラワーになった花
開花したままの姿できれいに染まっている

こだわってできた、プリザーブドフラワーを使って、マプロックではハーバリウム作り体験も行っている。
今でこそできることであって、マプロックを始めた当初はハーバリウムという名前さえ知らなかった。

ハーバリウムを知ったのは雑貨屋さんにアンケートを取った際に「ハーバリウムに使いたい」と回答していたことがきっかけだった。
どんなものかも分からない松田さんは、花のアレンジなどで教室を出している人にハーバリウムを作ってもらった。
「作ったのを見て、それがすごくよかったから、まずは自分の子どもの自由研究でやってみたがね」(松田さん)
まだなにもわからない状態で、手探りで作ったハーバリウムはたくさんのブルースターが入ってとても贅沢に仕上がった。
「ハーバリウムを作りながら、どのプリザーブドフラワーを入れたらダメで、どれならいいのかっていうのがなんとなくわかって」(松田さん)
この時は松田さん1人で運営をしていて、毛利さんが話を聞きに行ったときには試作品を作っていた段階だった。
経験を積んでいくことで、今のハーバリウムへと近づいていった。

ハーバリウムが流行り始めたときのことについて、「雑貨屋さんの人たちが色んなものを入れてみたがよ。ドライフラワーとか、プリザーブドフラワーとか」と松田さん。

ビンに花とオイルを入れて試作していたころ、プリザーブドフラワーは一般的に着色した染料がオイルに溶けだしてしまい、使いものにはならないと判断されていた。

「マプロックのプリザーブドフラワーをなんとか使えれんかな」(松田さん)

松田さんは考え、加工方法を変えて色落ちのしないプリザーブドフラワーの入ったハーバリウムを完成させた。

プリザーブドフラワーで作るハーバリウム
花以外にも海で拾ってきた貝殻やシーグラスが入っている

※植物標本の意味。現在は、観賞目的で、瓶に加工した花とオイルを入れて作られるもの

(有)サザンウェーブ/マプロック
黒潮町出身の2人が営業する有限会社。プリザーブドフラワーを中心に花材・ハーバリウム・アクセサリーを作成。ハーバリウム作り体験を通年平日受付中。

text Aoi Hashimoto

-うみべのあそび