ウィーン、ガシャン。ダダッ、ダダダダダ-。
広々とした工場内に響くのは何台ものミシンの音。パーツごとに縫われた布たちが、リズムに合わせ段々と形になっていく。
(有)じぃんず工房大方は、1966年、大手ジーンズメーカー「ビッグジョン」の縫製工場としてこの町でスタートした。
現在は下田の口という地域にある工場だけれど、創業当初は海沿いの工場でミシンの音を響かせていた。
「前の工場の時には、台風が来たら本当に直撃やったんですよ。松の木の根元が折れたりとかもしょっちゅう」
そう話すのは、代表の松田和司さん(56)。本当に海のそばで働いていた。
松田代表がじぃんず工房の社員となったのは37年前。
黒潮町出身、工業高校で土木を学び、卒業後は大阪へ就職するも一年ほどで挫折。アルバイトを転々としながら生活していた時に、当時の同社で働いていた父から声がかかる。
「帰ってくるか」
これをきっかけに地元へ帰ってくることとなり、現在は代表を務めて約20年になる。
「当時は全てビッグジョンからの受注生産でした。最初は自分もジーンズを縫ったり、壊れたミシンを直したりしていました。その後、今のじぃんず工房の形になってからは仕事がガラッと変わりました。「仕事をください」みたいな営業は一切したことがなかったので、まずはそこから。色んな交渉ごとも全部手探りで始めたんですよね」
会社が独立した頃から今まで、全て当事者として携わってきた松田代表。見よう見真似で始めた営業も、利益が出るようになるまでにはしばらくの期間がかかったという。
大変だったことは営業だけではない。注文の多くを占めていた取引先からのオーダーが一気になくなったことがあった。
「半年間従業員に休んでもらって、半年後にまた再開するっていうことがあったんです」
代表としては苦しい選択だったが、仕方がなかった。でも、これが今の「isa」の原点。
「その時に僕の親父とも色々考えたりしてたんですけど、もう、待ちよってもいかんので、「作って売る」ということをしようと。それがisaの始まりですね」
これまで培ってきた技術はある。機械もある。それなら、自分たちで商品を作って売ったらいい。2009年から始まった自社ブランド「isa」のアイデアは、実はそんな苦境の中から生まれていた。
「isa」という名前は、クジラの見える町・黒潮町ならではの名前。クジラの古名である「勇魚(いさな)」から表現したという。
「クジラが見える町っていうがで、クジラを何とか使いたいいうことで。それと、ジーンズなんでね。後ろのポケットに何か刺繍を入れて映えるようなものをということで、クジラの尾をイメージした刺繍を」
黒潮町の人間からすれば、町外を出て高知市内や県外へ遊びに行った時、この「クジラの尾」の刺繍が入ったジーンズを見ると、なんだか親近感が湧くし、どこかホッとする。始まってまだ10年少し。町民やisaのファンにとって、じぃんず工房のオリジナルブランドは、いつの間にか愛着の湧くマークになっている。
(有)じぃんず工房大方(黒潮町下田の口536)
1966年、黒潮町で創業。他社のジーンズ製品の製造(OEM)から始まり、2009年に立ち上げた自社ブランド「isa」の製品も好評を得ている。製品はパンツやカバン、コースターなど多岐に渡り、製造過程で残った布の端切れやゴミになってしまうようなものも再利用し、できるだけ余すことなく使用するなどのこだわりも。商品は同社工場内の販売店「シャロットファーム」やwebなどで購入が可能。
Text Lisa Okamoto