うみべのあそび

「釣りの楽園」は人生で一番楽しい暮らし(後編)

釣りをするのにちょうど良い拠点となりそうだと思った、それが高知・黒潮町だった。

そう思った矢先、世はコロナ禍となり、「黒潮町へ空き家の見学に行きたい」と筑波さんが思ってから実際に見学ができるようになるまでに約1年。ようやく初めて黒潮町へ訪れたのが2020年、下道をバイクで26時間かけ、東北から南国へとたどり着いた。

「初めてきた時、『やっぱり楽園に来たな』っていう感じがありました。海沿いをパァーッと走るじゃないですか。宮城や東北には、こういう景色ってないんですよ。いかにも魚が釣れそうな雰囲気がある。『良いところだな』って、単純に思いました」

「あそこでヒラスズキが釣れそう」、そんなことを考えながら沿岸の道を走った。

「楽園」に移り住んで、今年であっという間に4年目となる。

今は運送業の仕事をしながら、週に5日ほどのペースで釣りを楽しんでいる。色黒で明るくハキハキと受け答えをする筑波さん。サーファーにも間違えられそうだけど、実際、そうだという。

「よく『サーフィンをしたくて移住してきたの?』とか言われるんですけど、『いや、釣りです』って言うと、『え、釣り?』って驚かれます。でも、僕からしたら黒潮町は釣り人にとってすごく良い環境。黒潮町では上川口とか入野、四万十川にもいつでも行けるし」

夕方、仕事を終えそのまま釣りに直行し、アカメやイカを狙い出かけるという。休みの日には朝早くから出かけ、月に1〜2回ほどは早明浦ダムなど、宮城から引っ張ってきたボートを持って泊まりがけで出かけることもある。

「東北にいた頃は、高知はテレビの中の世界でしかなかった。エギング(イカ釣り)やアカメ、そういう、テレビの中のできごとでしかなかったものを、今、僕は実際に追い求めてる。こちらに来て2年、ようやく初めてアカメが釣れた時には、アドレナリンがもう、ドバドバ出ました。黒潮町で、ちょうど良い場所に拠点を構えて、その拠点からいろんなところに行って、テレビの中にあった世界を楽しめてるっていう感じですね」

根っからの釣り好きが、「楽園」と思い追い求めやってきたこの場所で、心の底から自分の好きなものを中心に据え楽しんでいることが伝わってくる。

今日は釣れるだろうか
500gほどのイカが釣れた

ただ、釣り、魚を追い求めやってきた黒潮町での暮らしは、今、筑波さんの中でそれだけには留まらないものになっている。

「(黒潮町に来て)後悔はない。ないです、全然。住んでいる人たちはもちろん良い人たちだし、景色も良い。不破原という四万十町寄りの地域に住んでいるんですけど、四万十市へ仕事に通っていて。通勤をするのにあんなに綺麗な海の横を走っていくのって、なかなかないですよね。『すごい景色の中を通勤するなぁ』って思います」

運送業の仕事で運転に慣れている筑波さん。30~40分の通勤時間は何の苦にもならない。それよりも、毎日の海沿いの通勤ルートが好きだという。

他にも、この町の「食」もお気に入り。

「食べ物もすごく美味しい。僕、『黒潮一番館』には月に1~2回行ってます。あそこのカツオが美味しい。自分は結構全国いろんなところへ旅をしている方だと思ってるんですけど、あそこのカツオは今まで食べたものの中で『うまいもの』の上位にいますね」

釣りはもちろん、地域の人たちとの交わり、町を取り巻く環境、自然、食。それらもひっくるめて、今、黒潮町に来てよかったと思っている。

筑波さんには、いつか、果たしたい夢がある。それは「○○kgのアカメを釣る」、なんかと思いきや・・・

「大きい魚を釣るとかっていうのももちろんありますけど、最終的には自分の家を建てたいですよね。もちろん、黒潮町内で。家があって、ガレージがあって、そこに車と釣りのためのボートを置いてっていうのが僕の理想なんで」

「今までよりも人生が楽しい」と、黒潮町での暮らしを表現する筑波さん。「好き」や「理想」を追い求めている人は、輝いていて、元気がある。筑波さんの楽しそうに話す姿が、全身から湧き出る充実感が、そう思わせてくれる。

朝から釣れたイカを手にする筑波さん
上川口港にて

筑波勇矢さん
宮城県元山町出身。釣りが好きで黒潮町へ移住。一時期は「バスプロ(バス釣りのプロ)」をめざしていたこともあったほど釣りが好き。「高知は釣り好きに取っての楽園」と小さい頃から思いながら過ごし、現在はその理想の地で暮らし4年目。仕事終わりや休日に町内外で釣りを満喫している。

text Lisa Okamoto

-うみべのあそび