うみべのいやし

美しく穏やかな物語の中で(後編)

―前編はこちらから―

「例えば、
私が食べて、旦那さんが食べて、
「おいしいな」とか「こんなものにしたいな」
っていうものをお店で出して。
それが「おいしいね」って思ってもらえたら、
なんだか共有ができているような気がして
嬉しいですね」

ティグレ、ブールドネージュ、
キャラメルアーモンドサブレ。

ミルフィーユ、ショート、カヌレ。

フランス菓子店に並んでいるような
美しく、静かなお菓子たちが並ぶ「雨と光」。

キャロットケーキやティグレ、ブールドネージュなど
おいしいお菓子がたくさん。
季節の生菓子をお持ち帰りして、さぁ、どれにしようかな。
上から時計回りに
苺ショート、苺のミルフィーユ、苺のタルト。
(※取材撮影時の内容。季節によって変わります)

でも、卓也さんにも、ゆいさんにも
その道での経験はない。

「本当に”好きの延長”っていう。
ただただ自分たちの生活の一部から
延びていったような」

誕生日などのお祝いごと、
「これ食べたい」という家族の声。
それに応えて作っていたゆいさんのお菓子たち。

「コーヒーもそう。
カフェで働いてたとかもないんですけど、
旦那さんがコーヒーが好きで。
私はじめはブラックが飲めなかったんですけど、
一緒にいるようになってから
そのおいしさがわかったというか。
それまではあま~いのとか、カフェオレとか。
でも、今はもうそっちが飲めなくなって。
豆の苦みとか酸味とか、
いろんな味がわかるように」

「友だちにレシピを教えてもらったりしながら
色々見つつ聞きつつで、織り交ぜながら。
「こっちがいいかな?」
「いや、こっちがいいかな?」で」

卓也さん、ゆいさんそれぞれの好き、
2人の「良いよね」が
「雨と光」という形になっている。

コーヒー以外にジュースも数種類。
ハーブや自家製シロップを使用したソーダなど。
この日は「フランボワーズのソーダ」。

「好き」が表現されているのは、音楽にも。

落ち着いた店内で
いつも”穏やか"に流れているサウンド。
インスタグラムの投稿にも、
お菓子や営業時間の案内の合間に
時々現れるレコードたち。

「音楽はもう、大好き。
ここで流しているものに
決まったジャンルは一切ないんですけど、
やっぱりテーマとしては
『美しさと穏やかさ』っていうところですかね。

その日の気分や天気、季節、時間とか。
雨だったら雨に合うものとか、
そんなので選んでます」

レコードプレイヤーの傍らに座る卓也さん。
コーヒーが入るまで、
こんな風にレコードを聴きながら待つのも良いかも。

ごく稀に
ダンスミュージックも流れているらしく、
「その空間も体感してみたいな」

そんな風に思いながら

「いっぱいありますけど、
せっかくなんで、高知の友人のレコードを」

と紹介してくれたのは、
高知県出身のアーティスト
「AMIGO UNIVERSO」の1枚。

「大阪のレコード屋で
ジャケットを見て一目ぼれして。
そしたら高知の人だと知って、
「高知だったら直接買えるかもしれない」って、
その時は買わずに機会を狙ってたんです。
で、2年前に直接買えたんですよ」

ジャケットのイラストは、ミモザ。
「春にはばっちりですよ。これ」

このところ寒い日が続いて
すっかり冬の中に埋もれていたけれど、
あぁ。急に春が待ち遠しくなる。

AMIGO UNIVERSOの「Virtual Nostalgia」というアルバム。
ミモザのジャケットは高知県の作家・国久時子さんによるもの。

「本当に一瞬ね、
コーヒーをただ入れる
その5分か10分くらいの時間で
ベンチに腰掛けてもらって。
人によっては横にある本を広げてもらったり。
一瞬だけどね、でもちょっとだけでも、何か…
普段とは違う、何かが伝われば」

ゆったりと座って、食べて、おしゃべりをして。

そんな場所ではないけれど、
「雨と光」の空間に身を置くその時間、瞬間を
お客さんと大切に共有したい。

「こんな表現が、
こういうところが黒潮町にもあるとか、
幡多にもあるとか、
そんな表現の仕方が伝わればいいよね。
まだまだ、知ってもらわないかん。
長いお付き合いになれれば」

丁寧で、柔らかで。
「雨と光」という言葉を現す、
そんな2人の、週末だけのお店。

「雨と光」
大城卓也さん・ゆいさん夫妻

珈琲とお菓子の店「雨と光」(黒潮町田野浦)
珈琲等のドリンクとお菓子のテイクアウト店として2021年12月にオープン。パウンドケーキやクッキーなどの焼き菓子や、季節ごとの生菓子を提供。ドリンクは、三重県のロースターから仕入れた豆を使用した珈琲に加え、庭で育てるハーブや自家製シロップなどを合わせたジュースも。営業日時、お店へのアクセスは「雨と光」Instagram(@ame__to__hikari)から。

Text Lisa Okamoto

-うみべのいやし