うみべのあそび

「あかつき文学」を広げ、未来へ(後編)

第50回の企画展には太宰治を取り上げた。
上林文学を広げるための企画展として、上林暁と太宰治の関係性を展示。
当時甲府に住んでいた太宰治。
「太宰が上林に『甲府に来たときに私に声をかけてください。案内します』って言うちょう」
甲府に行った時の出来事も綴られている。
「ピクニックに行ったり、将棋したり、お酒飲んだりして、ずっとお付き合いしようもんで、その都度上林が太宰のこと書いちょう。上林は太宰のことをいっぱい書いちょうけんど、太宰は上林のことを書いてない。しかし、上林のえいところは私小説なんでノンフィクション。あったことを書いていくんで歴史になるがよ」
上林暁は自分にあったもの見たものを小説に起こすため、本当にあった出来事が綴られている。それもまた、面白い。

「太宰は上林の作品では『野』が好きって言うた。上林は太宰の作品の中では『富嶽百景』が好きだって言ったら、太宰自身は自分の作品では『思ひ出』が一番好きだっていう会話がある」
なにか特別なことがあった日のことだけを書くのでなく、ある日常会話も書かれている。
「こういうことも小説を読んでいきよると分かる世界で」
小説を読んでいるからこそ分かることであって、小説から当時の情景や出来事を知り、それを紹介できるといことは「楽しい」という。

上林暁という名前で初めて出した作品が「薔薇盗人」。
「これ旧田ノ口小学校での出来事をそのまま書いちょうがよ。自分らが小さい時に生活した状況をそのまま書いちょうので、思い出すような情景があって、最後の方になったら年配の方は涙して読む」
上林暁の出身が旧田ノ口村(現黒潮町)だったため、私小説にはその頃あった町の出来事も書かれている。
本が写真や、動画では残せない過去の情景を書き出していることで、より一層鮮明に過去を思い出すことができる。
これも本のひとつの役割なのかもしれない。

「上林暁文学館の目的は上林の知名度を上げることと、上林文学のすばらしいところを町民のみなさんや全国の人に知ってもらいたいので、企画展や文学館を通じての広報活動を進めていくこと」
全国文学館協議会という全国の館長らが集まり情報交換を行う会がある。
そこに参加する館長は、みな上林暁のことを知ってくれている。
「そこは嬉しいところ。知らん人はまず、いない」
上林暁は全国にいくと知名度は少し低い。あわせて町内でも上林暁を知らない人もいる。そんな中、知ってもらえているのは嬉しいという。

建設当時、建物の名称を公募にかけ今の「大方あかつき館」に決まる。
「自分が事業を担当して施設の名前が「あかつき館」になったが、今にして思えば「上林暁文学館」のほうが良かったかもしれない(笑)」
「あかつき館」を知らない人に説明する際、「上林暁文学館」という名前であれば、文学館としての枠組みがあり、その中に図書館やホールなどがあることを説明できる。
その逆に「あかつき館って何?」と問われると、説明がしずらい部分がある。
名刺には、上林暁文学館を少し大きく書きその名刺を渡すようにしているとのこと。

砂を彫り、さまざまな形を作る「砂像アーティスト」でもある武政さん。
その活動で全国に行くこともあり、その際に出会った人にはあかつき館の名刺を差し出すという。
あかつき館を含め上林暁についても広く広めていきたいという気持ちがある。

図書館までの道は広々とした空間
施設内にあるふれあいコーナー
誰もが気軽に利用できる

図書館や上林暁文学館、各設備に加え、大きなホールがある。
「読んだり、見たり。文化を広げていくには映画もいいがやないかな」
ホールの利用促進にあわせ、文化を広げていく手段として、映画を見られる場所「あかつきシアター」も開設している。

武政さんの最終目標は、たくさんの方に上林暁を知ってもらうこと。
「上林の映画第二弾を作って、できたらここで封切りしてみんなに見てもらいたいなと。それを達成することが、私の役目かな」
上林暁の映画「病妻物語 あやに愛しき」という作品がある。その作品に続いて、第2弾の作品を作りたいという。
「映画の力はすごいので。全国にぴゃっと飛んでいくじゃないですか。それで見てもらって、『原作・上林暁』って出て、心打たれる作品であれば、また次も見たいってなるじゃないですか。そうすれば全国の人に知ってもらえるので、自分は見たいかな」
武政さんが自ら紹介する機会だけでなく、映画や本からも知ってもらえるようにと考える。

「今、上林暁の小説集の新刊が出ているので、『書店で買って』と宣伝するけど、ほとんど完売。すぐ売れる。大学生とかにすごい人気で。今まで出した書籍は無くなって増刊を出すことになって」
手に取って読んでくれている人がいるという事が目に見えてわかる。

町内にはいろんな場所に文学碑が建てられている。
うみべのまちを散歩していると見かける文学碑。
あかつき館内だけではとどまらない。
そうやって少しずつ広がっていく。あかつき館も上林暁も文学も。

あかつき館にある文学碑
上林暁の句が綴られている

大方あかつき館(上林暁文学館)
図書館、上林暁文学館、ホール、会議室、あかつきシアターを備える複合施設。基本は木曜日が休館日。年に3回の企画展と4回の文学講座を開催。

text Aoi Hashimoto

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