名前の「和や」は和が好きだからという理由だけではない。
「和む空間というか、暖簾にも和があるがですけど、みんながここで集まる空間。私、昔行きつけのバーみたいなところがあって、三畳くらいのところに同じ時間帯に知り合いじゃないみんなが集まって話をするがですよ。その店の雰囲気をめざそうと思うてね」
営業を始めたときはコロナが流行っていない時期だったため、みんなが集まって和になって話せる空間をめざした。「幡多弁でわやっていろんな意味があって。めちゃくちゃとかね。」少しにぎやかなイメージの幡多弁も取り入れつつ、当初の想いもふまえて名前がつけられた。
「和や」ではくじら焼きとかき氷を中心に販売をしている。
「ホエールウォッチングが有名な場所やけん。ただの鯛焼きじゃつまらんね。くじら焼きにしようかねって」
「おもしろい」が詰まってくじら焼きが誕生した。
くじら焼きは生地がもっちりしていて、香りがいい。
「動画を見たり、実際に鯛焼きを販売している現場も見たりして。あとは自分の好きなように。やりやすいように」
これまで、作ることを専門にしてきたわけでもなく、やると決めたときから独学で学んだ。
作り方の動画を参考にして、動画ではわからない部分を実際に自分の目で見て活かす。それにオリジナル要素も加える。
デザインも石川さんが考えたもの。
大きいくじらと小さいくじらが寄り添っている。
焼き台も特注で、これがまた大変だったという。
焼き台のデザインを作成する方と自分が作りたいと思うデザインが異なり、なかなか思うようにできなかった。それでも最後まで自分のデザインを突き通し今の愛らしい姿になっている。
鯛焼きと同じはさみ焼きでも、違いがありここにしかないはさみ焼きが誕生する。
「いろんな人が買いに来て、このデザイン2匹のクジラがおるけど親子でも、カップルでも。その人が思ってる対のもので見てもらえたら。このデザインに癒される人が増えたので嬉しいなと思う」
自分で作ったもので人が癒されると、作ったかいがあったと思える。
「やっぱりお客さんが店に来るのは楽しみですね。今日は誰が来るろみたいな。毎回違う人が来て、どんなドラマが待ちようろ。そんなに来んけどね(笑)」
そんなことを言いつつも、取材中にもイートインにはお客さんが座る。日によっては、買って帰る人のみの時もあるし、イートインでくつろいで帰る方もいる。
季節によっても、客層が変わる。
「夏になると変わりますね。夏はやっぱり『暑いからかき氷食べたい』って思うて、ネットで検索かけたら出てくるががうちみたいで。そういう時は県外の人も大阪とか遠方の方が多いですね」
町内の方はもちろん、県外の人もかき氷を求めて来てくれる方がいる。
「いまだに近所の人からも『こんな店いつからあったん?』とか言われたり。7年やりようがですけど、見つけてくれてありがとうって思う」
旧道にあるため、昔に比べて人通りが少なくなった分、見つかりにくいということもあるかもしれない。
そんなお店の外見にはくじらのマークがついている。
ここうみべのまちについて尋ねると、
「松原を犬と散歩している人やランニングしよる人とかが行きかう感じとかいいですね。あとはラッキョウ畑がかわいい」
たくさんあって、何を言えばいいかと悩みながらも、応えてくれる。
取材時に居合わせたお客さんに石川さんが同じ質問をする。
「松原とかも私からしたら別にね。ほっこりってはならんけど、風情はあるなと最近思いだしたね」(お客さん)
地元の人ではあたりまえの空間や瞬間が、石川さんにとっては素敵に思える。
そんなまちでこれからもみんなが集まってわいわいできる場所を続ける。
イベントにも参加していて、「『くじら焼きや』いうて年配の方からいろんな方が買いに来てくれたりすると、みなさんにも浸透してるのかなみたいな気持ちにもなりますね」このうみべのまちに「くじら焼き」という言葉、食べものが少しずつ広がっているのがわかる。
「近場しかせんですよ。忘れ物多いんで」
イベントは近場で行われるものにしか出店はしていないようで、笑いながら過去の忘れ物エピソードを話してくれる。
今後は、イベントや店舗販売だけでなく新たな販売方法を探しているとのこと。
「冷蔵販売とかできたらいいんですけどね。お土産屋さんとかで販売できたら」
くじら焼きを土産用に販売ができたらと検討をしている。しかし、調べるといろいろな設備が必要となり、難しいことも把握している。かき氷だけでなく、くじら焼きも多くの方に知ってもらいたい。地元の方には少しずつ広がってきたくじら焼きだが、町外の方にも知ってもらいたい。そんな思いもあり、今後に向けて今はいろいろと調べている。
初めは何か熱い思いがあって始めたわけでもなく、ただ「おもしろそう」という興味を追い「和や」ができた。
今はたくさんの人に知ってもらいたい気持ちと新たな「おもしろい」を探して。
今日も和やかな雰囲気の店内で「おもしろい」が生まれるのかもしれない。
甘味処 和や
くじら焼きを販売している甘味処。夏にはかき氷も販売していて、冬にはぜんざいなど、季節に合わせたスイーツが楽しめる。他にも冬限定の定食も提供。営業は月~土曜日の12時~17時(土曜日は12時~16時)日曜日・祝日が定休日。
text Aoi Hashimoto