ここうみべのまちの海で見れるクジラ。それをモチーフに作られた鯛焼きならぬ「くじら焼き」。フォルムが丸く愛らしく作られた「くじら焼き」を提供するのが「甘味処 和や」(以下、「和や」)を営む石川恵里子さん(44)。
東京出身の石川さんは東京の高校を卒業し短大へと進学をした。その後就職し、5年目に小笠原諸島に移住。
東京で生まれ育った石川さんにとって、小笠原諸島は自然が多く、そこでの暮らしに興味が湧いた。しかし、小笠原諸島には船が一週間に一度しか行き来しないため、もしもの際にすぐに実家に戻れないという欠点があった。それも踏まえ、当時付き合っていた旦那さんと相談し、いつでも実家に戻れる場所に移住することを決断した。
「小笠原の自然に侵されて、ビルに囲まれては(暮らすのは)無理やろうねって」
東京に戻るのではなく、自然の多い場所を移住先とした。
「その時に籍を入れて、新婚旅行でここに一回遊びに来たんですよ」
小笠原諸島で経験した自然の中で過ごす暮らしと、当時移住した場所が少し違い、自然はあるものの、人が多く都会と同じような感覚になっていた。そんな中訪れた黒潮町に衝撃を受ける。
「贅沢すぎて。全てが衝撃やった(笑)初対面やに住民の方が話しかけてくれて、『お姉ちゃんらどっから来た?よう焼けちょうやんか』言われて、人の壁がないんやねって思うて。食べものは美味しいし、野菜も安いし、お酒の種類は多いしで。『ここに住みたい』って思うた」
そんな思いもあり、2010年に黒潮町へ移住してきた。
当時は家も仕事も決まっていない状態で、初めての場所で一からスタートし、新しい生活が始まった。
「和や」ができるきっかけになったのは近所の方からの声掛けだった。近所の方の散歩ルートに、たまたまいた旦那さんが近所の方と仲良くなり、「うちの店のスペース空いちょうけど、なんかやらんかい」と旦那さんにひとつの提案をしてくれた。
そこから、恵里子さんに声がかかるが、「最初全然興味なかったがですよ」と話す。
家で料理をするうえ、店でも料理をするとなるとあまり気が乗らなかった。
そんな時に旦那さんから
「料理せんでもはさみ焼きの鯛焼きみたいながやったらおもろいがやない?」
この言葉で石川さんの興味がぐっと湧き、
「『それやったらいけるね』っていう軽いノリで」
一度場所を見に行くことにした。
その場所が、今経営をしている店になる。
古民家の玄関に当たる場所で、店の中は小上がりがあり、落ち着く空間が広がっていた。
もともと「和」の雰囲気が好きだという。
「古いというか情緒あるものが好き」
当時小さいお子さんがいた石川さん。小上がりがあり、子どもがいる人にも優しい構造にも魅かれた。
「これやったら鯛焼きとかでわいわいしてもろうたら楽しいな」
子どもからお年寄りまでいろんな人がくつろげる空間が目に浮かぶ。
「なんとなく、本当にこれやったらおもしろいねが固まって」
自分が魅かれるおもしろいものを追うと今の「和や」につながる。
そして2017年に店をスタートさせた。
甘味処 和や
くじら焼きを販売している甘味処。夏にはかき氷も販売していて、冬にはぜんざいなど、季節に合わせたスイーツが楽しめる。他にも冬限定の定食も提供。営業は月~土曜日の12時~17時(土曜日は12時~16時)日曜日・祝日が定休日。
text Aoi Hashimoto