うみべのあそび

「ついでの場所で、ついでに驚きが生まれれば」漁師町の風土を感じる道の駅

-前編はこちらから-

今年10周年を迎えた「道の駅なぶら土佐佐賀」(以下、道の駅なぶら)は、黒潮町佐賀の漁師町にある道の駅らしい、その特徴が前面に押し出され、地元の人はもちろん、観光客の多くを魅了してきた。

何と言ってもその特徴は、明神水産系列の道の駅ならでは、「藁焼きカツオのたたき」。

一歩店内へ入ると、透明のガラス越しでカツオを藁焼きにしている様子を見ることができ、県外から訪れる人は、きっと、じーっと見入ってしまう人も多いんだろうなと想像ができる。

「やっぱりこだわりはカツオの藁焼き。明神水産らしさが出ていますよね。それと、お米も自社製米。明神ファームというグループ会社でお米も栽培しているんです」

店内にはフードコートがあり、焼きたてのカツオをはじめとした定食など、美味しい地元のご飯が味わえるのは、ここ道の駅なぶらの特徴。

そんな道の駅なぶらに慶さんが戻ってきたのは2019年のことだった。

「2019年4月に道の駅なぶらの駅長として赴任、帰ってきました。ちょうど責任者がおらんなったタイミングで、親父からも『こうこうこうで、こういうことやけん、お前ちょっともんて来い』ってなって。僕も『それならそうやなぁ』って」

明神丸で培った経験を抱え、佐賀に帰ってきた慶さん。道の駅の経営というと、今までの経験とはまた少し異なる仕事のように思うけれど、それまでにしてきた経験こそを道の駅での仕事にも反映しようという思いを抱えていたという。

「明神丸は当時からお客さんや従業員を⼤事にする会社で、従兄弟であり社長の森下幸次の影響をすごく受けました。やっぱりその思いを道の駅に来てからも強くせないかんなって。というか、『道の駅に来たから強くせないかんな』じゃなくて、⼀貫した気持ちの中でさらにっていうイメージですかね。それに、お客さんや従業員にプラスして、道の駅では地元の⼈、⽣産者の⼈とも関わることが増えたので。そのみなさんを⼤切にしたい、そんな気持ちで帰ってきました」

道の駅なぶらを訪れると、物販コーナーには、佐賀地域周辺の地元の生産者が心を込めて栽培した野菜や果物、製品などが豊富に、そして綺麗に並んでいる。慶さんの思いを中心とした道の駅なぶらの店作りが反映されているのかもしれない。

「人を大切に」という慶さんの思い、そして会社の風土は、ここ数年で始まったことではなく、漁師の文化が色濃く現れていることがひとつ、要因のよう。

「元をただせば全てそこ」、慶さんがそう話すのは、船の上の漁師たちの姿。

「親父もそうやけど、元々は漁師の会社。船の上では厳しいこともあると思いますけど、従業員というか、船員との信頼関係がある。やっぱり、そこから始まっている」

長い期間、丘を離れ、一つの船の上で、海の上で、時間をともにするカツオ一本釣りの漁師たち。そんな漁師文化の中で培われてきた人と人との関係性が、今の仕事にも現れているのかもしれない、そんなふうに想像する。

地元佐賀で愛される豆腐屋の豆腐や厚揚げなども
佐賀は天日塩も特産品
複数の製塩所の塩が並ぶ
もちろん明神水産の「藁焼きたたき」も購入可能

現在、道の駅なぶらで働くのはアルバイトなども含め10名程度。

「明神丸の頃は一従業員として勤務していて、何かあれば誰かが助けてくれる状態やったんですけど、駅長になってからは、全てを判断せないかん。自分で決められるって、良いこともあり、大変でもあるなって。それと、明神丸で店長をしていた頃は、どちらかというと従業員に「やらせる」っていうスタイルだった。でも、今は「やってもらう」、そういうスタイルになれたかな」

そう変化したのには、慶さんが「自分だったら」と立場を変えて考えられる柔軟さが起因している。

「自分やったら嫌やろうなって。いきなり『今日からこの人が責任者ね』って新しい人が入ってきて、ああだこうだ言われたら。いかに歩幅を寄せられるかっていうところでしたね。従業員には『嘘つき』って言われますけどね。『最初の1~2カ月は何だったんだ』って。はははは」

冗談を言いながら笑う慶さん。やっぱりどことなく洋次さんと似た、佐賀の、漁師町の人らしいあっけらかんとした雰囲気がある。

笑顔で接客をする慶さん

2024年、今年で10周年を迎えた道の駅なぶら。節目の年を迎え、これまでを振り返る。

「最初の5年間はちょっとわからんのですけど、僕が来た時の前年に片坂バイパスができて、ちょっと人が増えたかなってなったらしいんですけど、その後僕が来て1カ月後に「令和」になって、それから一年後にコロナになって。なかなか激動の数年間でしたね。でも、ここ最近はようやくお客さんたちも戻ってきてくれています」

慶さんの環境も、世の中も、移り変わってきた数年間だった。そして、今、これからのことを考える。

「道の駅の在り方って色々あると思うんですけど、うちは、『ついでになるような道の駅』、そういう場所になりたいなって。目的のメインじゃなくてええかなって。幡多方面へ来るついでとか、何かイベントへ行くついでとか、高知市内へ遊びに行く休憩に、お土産を買いになんていう感じで、ついでに寄るっていうイメージ」

道の駅の本来の在り方は、こうなのかもしれない。そしてそこで、「驚きがあれば嬉しい」と慶さんは話す。

「ついで感覚で寄ってくれたら、いろんな驚きがあると思うんです。『あぁ、たたきもご飯も美味しいやん』とか、『お土産いっぱいあるやん』とかって。そうやって認知をしてもらっていったら、じゃあ、『今度あそこに行く時には道の駅なぶらに寄って〜』なんて、そんなふうに行程の選択肢に入れていただけるようになったらええかなって」

道の駅「なぶら」という名前。「なぶら」は、カツオ漁師の間では、「カツオの群れ」という意味として使われている。そうやって、やっぱり、いつの間にか人がいっぱい集まってくれるように。

「佐賀の人って、あんまり人見知りしないかも。普通に喋っている感じ。普通に世間話をして別れた後、『あれ、今のおばちゃんどこの人ながやろう』って。全然ありますね。多分、向こうも喋っちょって、『あの子どこの子ながやろう』て、絶対ある。佐賀はそういうのがありますね」

佐賀生まれ、佐賀育ちの慶さんと佐賀の地域が作り出す雰囲気、それが、道の駅なぶら土佐佐賀にはしっかりと映し出されている。いつの間にか人が寄ってきて、見て、喋って、楽しんで、またそれぞれの道に戻っていく-。

漁師町の道の駅。西へ東への途中に、ちょっと寄り道してみたくなる。

佐賀の風景

道の駅なぶら土佐佐賀
2024年に10周年を迎えた道の駅。黒潮町佐賀地域に位置し、幡多地域の玄関口として地元民や観光客をもてなす。明神水産グループの(株)なぶら土佐佐賀が経営していることもあり、明神水産の「藁焼きカツオのたたき」が名物。フードコートで食べられる他、お土産としても購入可能。その他、地元の作物やお土産品なども豊富に揃う。

text Lisa Okamoto

-うみべのあそび