うみべのあそび

自然体なくらし。自然を愛でるくらし。(前編)

国道56号線。
気持ち良い海沿いのルートを走っていると
途中で気になるログハウスに出会う。

この通りを走ったことがあれば、
地元の人だけでなく
きっと誰もが目にしているはず。

国道56号線沿いに建つログハウスとATOM HANDS

木工工房「ATOM HANDS(アトムハンズ)」は
このログハウスがある
敷地の一角に存在している。

ログハウスの話もすぐにしたいけれど、
まずはこのお店の話を。

今から5年前の2018年4月。
この場所に木工所を開いたのは、
松田勤さん・志津子さんご夫婦。

2人はともに黒潮町出身で元教員。
年齢も同級生で、
お話をうかがっていても
息がぴったりな雰囲気が伝わってくる。

素敵な夫婦だ。

松田勤さん・志津子さんご夫婦
海の見えるログハウスの前で撮影

25歳で教師となった勤さんは、
小さい時から木工好き。

船乗りもしていたという勤さんの父親が
木工や鉄工の作業をよくしていて、
一緒に小屋を作ったことも。
そんな経験が影響しているそう。

教師だった頃も
仕事の合間を縫っては
テーブルや椅子など、家具作りをしていた。

勤さんが初めて作った作品の丸テーブルは、
今も家の2階で現役。

そんな勤さんだが、
定年を迎える2年前、
58歳の時に病気が見つかり
早期退職をすることに。

「これから何をしようかな」
そう考えていたところ、
昔から好きだった木工の工房を開こうと
構想を始めた。

「教員をしていた頃から、
木工は息抜きができる場だった。
これを仕事にしたいと思った」

これがATOM HANDSが始まったきっかけ。

「入院中には、
知らぬ間にネットで注文した木工の本が
娘の家にたくさん届いてね」
志津子さんは笑いながら振り返るが、
勤さんの「木工工房」の構想は
この期間にどんどん膨らんでいった。

そうしてできたATOM HANDS。
最初の頃は売る商品がなかったため
2カ月間ほど集中して作品を作っては販売し、
その後また制作期間に入るといった調子で
娘さんに
「時々屋(ときどきや)やね」と
命名されていたという。

ログハウスの西側にあるATOM HANDSの店舗
娘さんが開業当初作ってくれたという前掛けには
「時々屋」の文字も。店舗内に飾られている。

その後、正式に店名を決める時、
元教員だった2人が
好きだった「原子論」の「atom」と
勤さんが昔から好きでよく通っていたという
東急ハンズの「hands」をとって
「ATOM HANDS」は生まれる。

仕事は勤さんが制作担当。
志津子さんが広報、塗装、
最後のチェックを担当する。

志津子さんのチェックを通らないと
商品として販売することはできないらしい。

「仕事をし始めたら休まんがよ。
本当は休みながらやってほしいけど、
もう没頭してしまって。
声をかけんとずっと作業し続ける」
心配する志津子さんに、

「仕事じゃあないけんね。木工いうたら日曜大工やろ。
日曜日は?遊ぶ時間ながよね。やけん楽しくて」
笑いながら話す勤さん。

工房内でカトラリー入れの取っ手をつける勤さん。
志津子さんと会話をしながら進める。
自然の木を使った取っ手は1つひとつが異なる形。
買い手にとって世界にひとつのオリジナルになる。

ATOM HANDSのこだわりは?という問いに対して、
「うーん。手作り感かな。
うちでは無垢の木を使う。
その分重たいけど、貼物は嫌。
丈夫だし、味が出てきて
ずっと使えるよね」(勤さん)

「うん、そうね。そう。
自然の木の素材をそのまま使ってるのが
うちのこだわりよね」(志津子さん)

2人の言葉でATOM HANDSのこだわりが明確になる。

木工の仕事を楽しむ勤さんも、
2人のコンビネーションも、
その両方が素敵だと思える会話が続いた。

現在のATOM HANDSでは、
ちゃぶ台やダイニングテーブル、椅子、
子どもの遊び道具など
多岐にわたる商品を制作・販売中。

店舗には多岐にわたる木工商品が並んでいる

また、海辺の日曜市など
マーケットへの出展も行っている。

「市(いち)に出るようになってからは
オーダーの注文も増えて。
対面でお客さんと会話をすることで
制作の幅も広がった。
うちをめがけて市に来てくれるお客さんもいたり。
嬉しいね」

ぬくもり。
何とも言えん香り。
オイル仕上げで際立つ木目の美しさ。

木工の魅力を感じながら
作って、手に取ってもらうことで
「Woody lifeのお手伝いができたら」
そんな思いで木工工房を営む。

自身の人生も、人の人生も豊かにする2人。

次は、2人の暮らしの話をしよう。

-後編に続く-

「ATOM HANDS」(黒潮町有井川150)
ふるさと納税の返礼品などでも人気な「IRECHOKIYA BOX」やちゃぶ台、ダイニングテーブル、椅子などを始めとした商品販売のほか、オーダー制作にも対応。「海辺の日曜市」(毎月第2日曜日開催)などにも出店している。営業は午後1時~午後6時(冬季は午後5時まで)、定休日なし。

text Lisa Okamoto

-うみべのあそび